東村山市教育相談室・専門相談員の清水洋邦さんの、心理学の立場から思う「子育て」についてのお話しです! |
子どもたちは夏休みに入りました。 梅雨も明けて暑い日々が続きますが、夏バテなどにならないように、気をつけたいところです。 夏休みになると、図書館に通っていたことを思い出します。小学生の頃、自転車で少し行ったところに図書館があり、涼みがてら読書をしていました(同じくらい友達と遊んだりもしていましたので、おかげで宿題は…でしたが)。 今回は、読書をテーマにお話ししたいと思います。 <本=楽しい、の方程式> さて、書店に行くと、数多くの本がならんでいます。例えば、ちらっと子ども向けのコーナーを覗いただけでも、様々な種類の本が発見できます。絵本をはじめ、数や文字を覚えるための本、乗り物や昆虫などを紹介した本(図鑑)、「ウォーリーをさがせ!」のようにゲーム感覚の本もありますね。 本を読むという行為は色々な目的や効果がありますが、小さい子どもの場合、まずは「本を楽しむ」ことだと思います。つまり、本を読むことは楽しい、と感じることですね。なんでもそうですが、小さい子どもというのは情報量が少なく、また、体験も少ない。従って、未知のもの、未経験の事柄に対する評価・好き嫌いが定まっていません。言い換えれば、その好き嫌いを決めていく時期でもあります。 「本=楽しい」という印象ができれば、子どもは自然に本を手に取るようになります。少なくとも、本に触れることへの抵抗感は少なくなります。本はもちろん、教科書、専門書、新聞など、やはり活字というのは情報伝達手段として圧倒的に多いわけですから、それに対する抵抗感は無い方がよいですよね。 絵本を始め、写真が多い本やゲーム仕立てになっている本、なんでもいいのですが、様々な本に触れる中で、本に対してプラスのイメージを持つ事が出来れば、それは素晴らしいことだと思います。 <読み聞かせの魅力> 絵本の読み聞かせについても、様々な効能が挙げられています(音読によって言葉を覚えるなどなど…)。ですが、そうした効能は抜きにしても、本を楽しむことができれば十分成功ではないでしょうか。 また、読み聞かせには面白い点があります。それは、一つの物語を読み手と聞き手が共有するところです。ですから、一方通行になることはありません。読み手は聞き手の反応を見ながら話し、それを受けて聞き手はさらに様々な反応を見せる。会話はしていないけれど、その中には明らかにコミュニケーションがあるわけです。 このコミュニケーションを行っている間、実はとても濃密な時間が流れています。ちょっと抽象的な言い方になりますが、心のふれあい、と言えばいいのでしょうか。読み手と聞き手はこの時、同じような感情を共有しています。楽しい、嬉しい、悲しいなどなど。あるいはこうした名前はつけられないけれど、ドキドキしたとか、ハラハラしたとか。こうした感情を共有する中で、愛着が深まっていくのです。 私は、高校時代に図書委員会に入っていました。文化祭の時、絵本の読み聞かせ会を行ったのですが、これがとても好評でした。就学前の子どもから小学生まで、思っていたよりも幅広い年齢の子どもが集まってくれました。 一緒に読み聞かせをした後輩から聞いた話ですが、彼が担当していたグループに、本嫌いの子がいたのだそうです。でも、何冊か読み聞かせをしているうちに、その子が自発的に本を持ってくるようになったのだとか。「最初、『本読むの?』って聞いたら『嫌い』って答えた子が、結局最後まで放してくれませんでしたよ」。読み聞かせの持つ効能が実感できた一件でした。 <小学校時代の体験> 小学生の頃ですが、私が読んでいた児童書を、母も時々読んでいました。お互いに本の話をして感想を話したりしたことがあります。少し古いかもしれませんが、「ズッコケ三人組シリーズ」(那須正幹)、「クレヨン王国シリーズ」(福永令三)、「宿題ひきうけ株式会社」(古田足日)などを好んで読んでいました。また、「ナルニア国物語シリーズ」(C.W.ルイス)、「ゲド戦記」(ル・グウィン)といった海外の翻訳物も好きで、良くよんでいました(ナルニア国物語は、来春映画公開が決定しています)。 一方、父とは、横山光輝の漫画「三国志」を一緒になって読んでいました。最初は私が読み始めたのですが、途中からは父が熱心に読むようになり、後半はほとんど父が買ってきていました。父と登場人物の話をすると、盛り上がったことを覚えています。ちなみに、今でも時々電話で三国志の話をすることがあります。 <感想のシェアリング> シェアリングは「分け合う」という意味です。ここでは、その時の感情や思ったことを他の人と話し合う、という意味合いで使っています。 子どもたちが自分で本を読むようになると、読み聞かせによる感情の共有は難しくなります。そこで、子どもの読んでいる本を読んでみてはいかがでしょうか。最近だと、例えば「ハリー・ポッターシリーズ」(J.K.ローリング)が大人も巻き込んでのブームとなりました。 趣味でもなんでもそうですが、誰かと共通の話題で話ができるというのは、とても楽しい事だと思います。難しい解釈や捕らえ方、考え方をする必要は無いのです。「面白かったね」くらいの簡単な感想から始めてみて、子どもと感想を話してみてはいかがでしょう。私自身がそうだったのですが、子どもにとって、親と同じ本を読んでいてその話ができる、というのはとても嬉しいことです。 また、児童文学といわれる作品にも、大人が読んで楽しめる作品、考えさせられる作品はたくさんあるので、お勧めです。 <最後に…> 小学校に入る前の話ですが、私の家では毎月、福音館書店の「こどものとも」と「かがくのとも」という月刊の絵本を取り寄せていました。前者は物語を中心とした絵本、後者は自然科学をテーマとした本です。これを主に母が読み聞かせをしてくれたのですが、どちらも面白い作品が多く掲載されていました。これをきっかけに、本が好きになったように思います。 第二回で触れましたが、子どもの世界というのはとても小さくできています。ですから、一冊一冊の本との出会いが、非常に大きな影響を持つ可能性があるのです。それだけに、その本の持つ世界を共有するというのは、親が子どもの触れる世界を把握するという意味で重要なだけではなく、子どもにとっても大きな意味があるのではないでしょうか。 本を好きになるきっかけは人それぞれです。どんなに良い本であっても、無理に読ませたり、タイミングが悪かったりすると、子どもは読んでくれません。ですから、まずは子どもの読んでいる本、興味を持っている本を手にとってみると良いと思います。 そして今度は、自分が子どもの頃に楽しんだ本を薦めてみてはいかがでしょう。読書を通じてのコミュニケーションというのも、とても面白いと思いますよ。 |
2005年8月号