東村山市教育相談室・専門相談員の清水洋邦さんの、心理学の立場から思う「子育て」についてのお話しです! |
近頃めっきり涼しくなってきましたね。ちょっと前まで30度を越える日々が続いていたのが嘘のようです。 最高気温は20度前後、この時期が一年で一番過ごしやすい季節じゃないかな、と思うんですが、どうでしょう。ただ、寒暖差が激しいのは閉口します。おかげで久しぶりに風邪をこじらせてしまいました。季節の変わり目、皆さんも健康には気をつけてくださいね。 冬もすぐそこまで来ています。夏が暑い年は冬は寒くなる、という話を聞きますが、あまり寒くなりすぎないで欲しいものです。 <言葉とそれ以外のメッセージ> さて、前回は語彙を増やすといいうお話をさせていただきました。あくまでも子育ての視点からのお話でしたが、コミュニケーションという点から見ても、語彙の豊富さというのは良いことに繋がるでしょう。 ところで、コミュニケーションという場合、言葉に重点が置かれているように感じませんか?最近よく見かける本に、「対人関係を円滑に進めるためには?」という内容のものがあります。ビジネスや学校、家族などなど、様々な場面でのコミュニケーションについて書いてあります。少し目を通してみると、会話の応答や言葉の使い方などを中心に、詳しく書いてあるなと思います。ですがその反面、言葉以外のコミュニケーション、メッセージについては触れられている頻度が少ないなと感じます。 「言葉以外のコミュニケーション」というとピンとこないのではないかと思います。 というわけで、今日はちょっと変わったワークをやってみましょう。 藤子F不二雄さんのドラえもんという漫画があります。テレビアニメにもなっていますので、ご存知の方も多いと思います。 勉強もスポーツも苦手なのび太の元に、未来からドラえもんというネコ型ロボットがやってきます。ドラえもんは不思議な能力を持ったひみつ道具を持っていて、のび太のやりたいことができるようにしてあげる、と。そんなお話です。ちなみにドラえもんの好物はドラ焼きです。 ドラえもんを使って、ちょっとしたワークをやってみましょう。 <ドラ焼きを食べられたドラえもん> このドラえもんの原作は漫画です。 頭の中に、下記のようなドラえもんの漫画のコマを思い浮かべてください。 1コマ目:部屋でドラ焼きを食べているのび太 2コマ目:それを見つけてしまったドラえもん という単純なコマです。 さて、これに続く3コマ目。これを3パターンほど想定してください。 A)顔を真っ赤にして怒りにワナワナと震えるドラえもん B)特に反応せず、平気な顔のドラえもん C)あきれた表情のドラえもん それぞれのドラえもんの気持ちはわかりますよね。仮に、こういうコマがあったとします。 次にここに対応しそうな台詞を入れてみましょう。 例えばAであれば「僕のドラ焼きを勝手に食べるな!」といったところでしょうか。とにかく怒っていますね。 Bは少し難しいでしょうか。「食べたら遊びに行こう」とか「」というごく普通の言葉かけにしてみましょうか。特に何も言わずに「…」と黙ってのび太を見てみるというのもあるでしょう。 Cでは「あきれた。よく食べるね」くらいかな。 試しに思い浮かんだ台詞を、紙に書いてみてください。 それぞれ、シチュエーションに併せた台詞になったと思います。各パターンそれぞれで、ドラえもんの気持ちを表した台詞になっていますね。 <台詞をバラバラに入れてみる> 3つの台詞はドラえもんの気持ちを表し、動きとも一致しているはずです。 では、今度はこの3つの台詞をシャッフルしてみましょう。つまり、別の絵に他の台詞を言わせてみます。ぱっと考えると、気持ちと台詞はちぐはぐになるはずですよね。ところが、これはこれで通じてしまうんです。 では、ちぐはぐになったはずのコマで、ドラえもんの気持ちはどのように伝わってくるのでしょう?実は伝わってくるメッセージは、絵の方がベースになるんです。 Aの絵を想像してください。そこに上の三つの台詞をそれぞれ入れたコマを考えてみましょう。でも、どう言っていようとドラえもんは怒っていませんか? Bの絵も同じです。どの台詞を入れようと、ドラえもんはのび太がドラ焼きを食べていようと、そんなに気にしていません(ドラ焼き好きのドラえもんが怒らないから、何かひみつ道具を使っているのでしょうか) Cの絵。怒った台詞が入っていても、実際にはそれほどの迫力はないはずです。「しょうがないなあ」というニュアンスになると思います。 絵を用意していないので申し訳ないのですが、これは本当にそうなります。興味のある方は試しにドラえもんの漫画を使って試してみてください。 <気持ちは態度に表れる> このワークでは、わかりやすそうなのでドラえもんを使ってみました。でも、ドラえもんに限らず、他の漫画でも同じような現象が起こります。つまり我々は、吹き出しに書いてある台詞ではなく、絵そのもの、ドラえもんの表情や動きを見て、ドラえもんの気持ちを受け取るわけです。言葉でどんなメッセージを発していても、言葉以外のメッセージから気持ちを受け取ってしまうわけですね。 これは漫画の世界の話だけではありません。日常生活でも同じことが言えます。つまり、我々のコミュニケーションというのは、言葉よりもそれ以外の要素に重みが置かれているんです。 こうした表情や態度といった非言語的なコミュニケーションを「ノンバーバルコミュニケーション」と言います。言葉によるコミュニケーションは「バーバルコミュニケーション」と言います。コミュニケーションにおけるそれぞれの割合はどれくらいかというと、実は、ノンバーバルコミュニケーションが85%〜95%を占めるという結果が出ています(実験手法によって多少の差異があります)。思った以上にノンバーバルコミュニケーションの割合が高いと思います。 でも、考えてみてください。「怒ってないよ!」と言いながらイライラしている人を見ると、「あぁ、怒ってるんだろうなぁ」と感じませんか?受け取る側は、言葉によるメッセージ以外の部分で気持ちや感情を理解することが多いのです。 <意識のちょっとした向け方> ノンバーバルなコミュニケーションというのは、意識せずとも自然に出てしまうものです。なかなか嘘がつきにくいんですね。 例えば初めて人に会う時、緊張していたとしましょう。そうすると、あたりをきょろきょろ見たり、まばたきを普段よりも多くしたり、声が上ずったり…様々な動きがつい勝手に出てしまいます。子どもも大人もこうした意味では変わりません。こうしたノンバーバルな部分から相手の気持ちを察したり、逆に自分の感情を再確認したりすることもできます。 ところが、普段我々はバーバルなメッセージを発する際にはある程度意識するのですが、ノンバーバルなメッセージについては意識せずに出してしまうことが多いのです。受け取る際にも深く考えずに受け取るので、このこうしたノンバーバルコミュニケーションをしっかりと考える機会と言うのは中々ないと思います。 ノンバーバルコミュニケーションのスキルというのは、実はとても重要なスキルです。実際には多くの方はこのコミュニケーション能力を持っています。でも、わかりやすい形でスキルの差が出ることは少ない。そして、意識してこのスキルを使うことはなかなかない(もっとも、実際に人間の行うコミュニケーション全体の中で、意識して行っているものは1割程度だそうですが)。だからこそ、ほんの少しでもそこに注意を向けることで、コミュニケーションはぐっと円滑になっていくと思います。 普段、何気なく行っているコミュニケーションですが、もう一歩進めるだけで、さらに良いコミュニケーションに繋がっていくと思いますが、いかがでしょうか。 |
2005年11月号