東村山市教育相談室・専門相談員の清水洋邦さんの、心理学の立場から思う「子育て」についてのお話しです! |
12月になりました。年の瀬を迎えますと、さすがに冬という印象が強くなりますね。日が暮れるのも早くなり、朝晩の冷え込みも厳しくなってきました。 それにしても今年は随分と冷え込みそうです。先月は「12月中旬並の冷え込み」というフレーズをちらほら聞きました。私は実は寒いのは苦手なので、冬場は気合を入れてかからないといけない季節なんです。1月生まれなのに変な話なのですが(苦笑) <9割のノンバーバルコミュニケーション> さて、先月はちょっとしたワークを通して、コミュニケーションについてお話をさせていただきました。 普段、あまり意識しない非言語的なコミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)の重要性について考えていただけたかと思います。ノンバーバルコミュニケーションがコミュニケーション全体の9割前後を占めている、という話を聞いてびっくりされた方も多いと思います。私も大学の授業で初めて聞いた時にはびっくりしました。 しかし、考えてみるとバーバルコミュニケーションには「言葉」という要素しかありません。それ以外の要素はノンバーバルコミュニケーションになるわけですから、そこには様々な要素が含まれていることがわかります。今日はノンバーバルコミュニケーションについて、もう少し具体的に考えてみましょう。 <顔には何が書いてある?> 「顔に書いてある」、「顔色を窺う」といった言葉があります。また、「眉をひそめる」、「口をとがらせる」という表現もありますね。顔はノンバーバルなメッセージが表れやすいんです。 まずは表情。笑っているか、怒っているか、あるいは泣いているのか。また、例えば一口に笑うと言っても、にやけているのか、大笑いしているのか、苦笑いなのかと細かな違いがあります。表情というのは、多彩に感情を表現しているんですね。 目も大きなメッセージを発しています。「目は口ほどにものを言う」なんて言いますが、まさにそれです。嘘をつくと視線を合わせない、というのは良く言いますね。また、照れている時や恥ずかしい時には伏し目がちになったりすると思います。真剣に話を聞いていると、視線は相手の方を向いています。逆につまらないなと思っていると、視線はあちこち他所に行くのではないでしょうか。 また、「青ざめた顔」という言い方があるように、顔の血色からも感情を読み取ることが出来ます。あとは顔の筋肉でしょうか。顔が強張ったりしていれば、緊張や怒りのサインかな、という風に感じるのではないでしょうか。 <文字通りの“傾聴”> 姿勢は意外と重要なファクターだったりします。 単純にどこを向いているかだけでも一つのメッセージになります。身体をきちんとこちらに向けて話をしているのか、それとも首だけ曲げてこちらを見ているのか、あるいは全くこちらを向いていないのか。これだけでも、相手が自分にどれくらい関心を持ってくれているのか、何となく感じられるのではないでしょうか(テーブルがあって着席している場合などは別です)。 続いては姿勢です。喫茶店などで向かい合って椅子に座り、話をしている場面を想像してみてください。相手が椅子の背もたれに思い切りもたれかかったり、ふんぞり返っているとします。相手は身体をきちんとこちらに向けています。でも、ちょっと話しにくいな、もしくは話したくないな、という風に感じませんか?逆に背もたれから離れ、少し前に乗り出すような感じだと、話を聞いてくれているな、という印象を持つのではないでしょうか。 人間は興味のある方向に引かれる、と言います。これは単に身体の向きだけでなく、身体そのものが興味を持っている方向にぐっと引き寄せられるんですね。その結果、身を乗り出していくんです。どこをどのように向いているかで、関心があるのかないのかがわかってしまいます。また、相手の話す気というのもこの姿勢によって左右されてきます。 カウンセリングでは「傾聴」という言葉を使うことがあります。相手の話にきちんと耳を傾け、能動的に自分から聞こうという姿勢を取ることを指す言葉です。そうすると、自然に身体が前に傾いていくんですね。傾いて聴くから傾聴、なんて学生時代に冗談めかして言ったりしたものですが、姿勢の重要性というのはあります。 <話し方の工夫> 言葉そのものはバーバルコミュニケーションに含まれますが、言葉の発し方はノンバーバルコミュニケーションに含まれます。具体的には話す時のイントネーションやスピード、声の大きさ、間の取り方などが挙げられます。 前回のドラえもんのワークを少し思い出してみてください。怒ったドラえもん、普通のドラえもん、あきれた顔のドラえもんという3つのコマを想像し、それぞれのセリフを入れ替えるというワークを行っていただきました。 この時ドラえもんはそれぞれのコマで、同じセリフを「同じように」話していたでしょうか? 忘れた方はもう一度前回を読み直してみてください。おそらく、同じセリフ(例えば「僕のドラ焼きを勝手に食べるな」)であっても、それぞれのコマでは喋り方が違うのではないかと思います。例えば、怒った表情であれば声も大きく、言葉も強めになるのではないでしょうか。あきれた顔のドラえもんは、声も大きくないし、諭すような声のかけ方になったりするのではないかと思います。 「言葉」に「声」が加わるだけでも、メッセージの持つ情報量は大きく膨らむわけです。 <子どもはちゃんと感じている> ノンバーバルコミュニケーションのいくつかを具体的に挙げてみました。一口に「非言語」と言っても、様々な要素が含まれていることがわかると思います。そしてノンバーバルコミュニケーションは、気持ちを表現する力が強いことに気づいていただけたのではないでしょうか。 こうしたノンバーバルコミュニケーションを意識することは、子育てにおいても大切になってきます。なぜなら子どもは、大人が考えている以上にノンバーバルなメッセージを受信する力に長けているからです。親の態度、表情、声、立ち居振舞い、そういったものから常にメッセージを受け取っています。 例えば悪いことをして叱られた時。その叱り方(怒り方)を見て、子どもは親がどれだけ怒っているかを察します。「これは大したことないや」とか「これは相当怒ってるぞ…」という風に。誉められた時にも、親がどれだけ嬉しそうな表情をするか、といったことを子どもはしっかり見ていてメッセージを受け取っています。 <大切なのは“一貫性”> では親はノンバーバルコミュニケーションのどういった面に着目すればよいのでしょうか? 大事なことは、バーバル−ノンバーバルそれぞれのメッセージの間に一貫性を持たせることです。 「もう怒ってないからね」と言いながら、親がイライラしたり、厳しい表情をしていれば、「本当は怒っているのかな」というメッセージを受け取ります。また、「頑張ったね」と誉めながら、どこか落胆した様子を感じれば、「本当は嬉しくないのかな」というメッセージを受け取ります。 このように相反するメッセージを受けると、子どもは混乱します。本当はどう思っているんだろう、ということが心配になってしまう。どちらのメッセージを信じればいいかわからなくなります。これが何度も続くと、子どもは安心して過ごすことができなくなってしまいます。 バーバル−ノンバーバル間の一貫性があれば、子どもは親のメッセージを素直に受け取ることができます。怒っている、喜んでいる、悲しんでいる――どういったメッセージでも、これは同じことが言えます。子どもを誉めてあげたり、喜んでいることを伝えたい時には、言葉以外の面、つまり顔や体を使ってそれを表現すればいいのです。怒っていると伝えたい時も同じで、ノンバーバルなメッセージを伝えてあげることが大切になってきます。 ノンバーバルコミュニケーションは、普段のコミュニケーションではなかなか意識されません。「何を話そうか?」と考える機会はあっても、「どんな顔をしようか?」と考える機会はあまりないでしょう。その分、バーバル−ノンバーバル、それぞれの間でメッセージにずれが生じてしまいます。こうした点に意識を向けてみることで、コミュニケーションも少し変わってくると思います。伝えたいメッセージを、バーバルでもノンバーバルでも同じように表現することが、子どもとのコミュニケーションでは大切になってきます。 |
2005年12月号