ママとパパのリレーエッセイ
ー第68回ー
STさん

 一説によると、人の脳は、良い思い出を7割、嫌な思い出を3割、の割合で記憶するそうです。

人生を生きやすくするために、記憶を都合よく取捨する、という脳の防衛装置のようなものでしょうか。

たとえば、出産の痛みについて、皆さん1年もすると、実感としての痛みは、忘れてしまっていますよね。

鮮明な痛みの記憶は、次の妊娠の妨げになるからカットするように、遺伝子の設計図に書いてあるのかもしれませんね。
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ところで、私は、子どもが好きではありませんでした。 子育てを身近で見たことがなかったので、イメージが出来ないのは無理もない話なんですが。

とはいえ、そんな私でも、子どもを授かってからは、子どもを見ているのが楽しくなりました。 今はどちらかというと、大好きなくらいです。

赤ちゃんをみかけると、「かわいい! もう一度赤ちゃんを育ててみたいわあ」と思います。
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でも、我が家は一人っ子。 「ワタシにもきょうだいがほしいな。」と我が子から言われると、

「他のおかあさんは頑張ってるのに、どうして自分は生まなかったんだろう?」

と自分を責めて後悔することもあります。

しかし現実は、妊娠、出産、子育てと、父の介護を並行して行っていた為、これ以上の子どもは無理だったのです。

さらに夫が病気で働けなくなったりもしました。 そして父は ある日突然亡くなり、 今度は私自身が大病を患いました。
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悪い事が一遍に降ってきたような中で、「なんとかこの子だけはちゃんと育てよう」と必死だった悩み多き数年間。

その間の子育ての記憶は、病気や死という辛い記憶と絡み合っているので、脳の防衛装置が働いて、うっすらベールをかけてしまったようで、時々、先のような思い違いをします。

私は今、子どもとかかわる仕事をいただいていて、私の母世代の方と子育てのお話をする機会があります。
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そこでよく聞くのが「今のおかあさんたちは甘い。 私の若い頃はもっと頑張っていたわ。」という言葉です。

私も少し前までは、それを鵜呑みにして、「もっと頑張らねば!」と自分を叱咤していましたが、今は、「おばさ〜ん、それって記憶のイイとこ取りしてるのかもyo〜?」って思いながら聞いています。
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幸い、体調も生活状態も、低空飛行ながら安定してきたので、つらい記憶とも向き合えるようになってきました。

私は、あの時期の、良いことも悪いこともできるだけ忘れないよう、バックアップをとりつつ、これからも子どもと一緒に成長し、経験を積み重ねることを通じて、人の気持ちが汲み取れる人間になっていきたいと考えています。
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2008年10月号