ママとパパのリレーエッセイ
ー第79回ー
おもちねこさん

赤ちゃんを味わう

12年前、私は初めての出産・子育てにわくわくし、情報収集にいそしんでいました。図書館にあるそれ関連の本を読みあさり、自分なりに理想とする出産・子育ての姿を思い描いていました。予習は完ぺき。すべてうまく行くはずでした。自然なお産と母乳育児を大切にする小さな産院を見つけ出し、そっけないけど温かな先生の診察を毎月楽しみながら、妊娠生活を送り、いよいよ出産。どんな痛みにも耐えるつもりで陣痛を迎え数時間後…。
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あろうことか、私は分娩台の上で『自然分娩なんてもういいから、何使ってもいいから、誰か助けて!』などと心で思っていました。

理想と現実の違いをまさに痛感…。その後も私の理想は音をたててくずれ落ちるのです。


母乳が出ないのです。
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母乳にいい入院食も食べているし、おっぱいマッサージも受けている。生まれてすぐから何度も何度も吸わせている。赤ちゃんはおなかがすいているのか、吸う力もびっくりするくらいあってとても上手。でも、ごくんとしない。出てないから。

母ぐらいの年齢の看護師は「大丈夫よ。でてるわよ。頑張って。」と言う…。

自分でしぼってみると、出るというかにじむ感じ。
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それでも娘は一生けん命吸ってくれました。ところが、3日目のある時、吸っても吸っても出ないおっぱいに疲れ切ったような表情で、吸うのをやめプイッと口から乳首を出したのです。

生まれて3日目でこんな気持ちを味あわせてしまうなんて…。母親失格だ。ひどく落ち込みました。

そして退院。

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「家でも母乳で頑張るのよ。」看護師は笑顔で言いました。

少しずつ出るようになったものの、間隔があかず2時間ともたないので、母子ともにくたくた。そして体重が増えない。

手伝いに来ていた私の母が見るに見かねて「おっぱい足りてないんじゃないの?」と言ったとき、私は、「昔と違うんだから!」と怒るしかありませんでした。。
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母は私を育てるとき、母乳がたくさん出るのに、母乳よりミルクのほうがいいという当時の育児指導に従い、ミルクで育てた人。私は何を信じればいいのかわからなくなっていたのです。

自分の信念に基づき1か月間頑張り、そして1カ月検診。

例の看護師が体重測定。「少し少ないけど大丈夫よ。」

それは本当?ほんとに大丈夫なのかな…。
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ところが、先生が言いました。

「体重が少ないからミルクあげたほうがいいよ。ミルクは罪悪じゃないから。」

私はその言葉に心から救われた気がしました。

ずっと待っていたのです。早く信頼できる誰かにそう言って欲しかった。家に帰り、封を開けずに置いておいたミルクを与えると、一気飲み、そしていつもより長く眠ってくれました。
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当時のアルバムを見ると1カ月検診の日の写真と一週間後の写真が全く別人です。本当にかわいそうなことをしたなと思います。娘よ、ごめんね。

その後は母乳とミルクで8カ月まで続けました。母乳は相変わらず出が悪く、娘も『疲れちゃうからもういらない。』そんな感じでおっぱいから離れていきました。ちょっと寂しかったけどほっとしました。
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8歳違いの次女が生まれたとき、私は母乳でもミルクでもどちらでもいいや。子供も自分も楽で幸せなら。そう思っていました。出産は家から一番近いという理由で某大学病院を選びました。ところが2回目だからか母乳も十分に出て、次女は3歳まで母乳に執着し、断乳は非常に苦労しました。

結局、自分の全神経を集中して子供を観察し、何が一番大事なのか見極めたうえでいろいろなことを選択していくしかないのでしょう。母乳に限らずいろいろな面で。
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母乳以外でも、一人目育児に関しては挫折を繰り返しました。親の思うように子供って育たない。そうなげいていました。

ところが、次女が生まれたとき、ひさしぶりに見る赤ちゃんのほわほわした感触に私は驚きました。

赤ちゃんってこんなに小さくてかわいかったんだっけ。そして長女の大きく成長したこと!
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思うように育たなかったなんてなげいていたけど、彼女の成長に気付かなかったのは親のほうでした。

そして、今度はこのかわいさを思い切り味わって楽しむ育児をしようと方向転換しました。
そうでなきゃもったいない!

たとえば、匂い。赤ちゃんってほんわかいい匂いがします。この匂いが大好きです。子供をひざに座らせて、頭をくんくんしたり、すやすや眠ってたら、そ〜っと近づいてくんくん。
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よその赤ちゃんだってかいじゃう(*^_^*)やっぱりいい匂い〜。ほんと落ち着きます。まさにアロマテラピーです。次女はもうすぐ4歳ですが、まだまだあったかいいい匂いがします。

それから手ざわり。毎晩添い寝で触りまくってます。特に好きなのが、私の手のひらにおさまる小さな足。つぼみみたいにきゅっとしまってて、木目が細かくてもうたまりません.
赤ちゃんだったころはおんぶして足をむにゅっとつかむのも好きでした。
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そしてお尻。うちの次女はよく食べるので肉まんみたいにぷよぷよなんです。添い寝でさわさわしながら子供も私も夢の中へ〜。

最後に言葉。言葉を覚えかけのときってすごく面白いですよね〜。間違っててもうちではあえて直したりしません。教えなくたってそのうち勝手に覚えちゃうんですから。かわいいおちび語を十分堪能します。正しい言葉が言えるようになるとがっかりしたりして。かわいかったのにな〜なんて。
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今日もやっと食べれるようなった小松菜を

「こなつまちょうだい!」

もうかわいすぎです!一人目と二人目で間違え方が若干違ったりするのも、親にしかわからない楽しみですよね。こんな風に小さいうちしか味わえないこといっぱいあると思うんです。

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長女を育てているときは日々必死でした。おっぱいとおむつ交換、泣いたらだっこ。やりたいことが思うようにできない。続けて眠れない。赤ちゃんのほんわかした感触を楽しむ余裕なんてありませんでした。でも、そんな楽しみに気付かずにいるのは絶対にもったいないです。赤ちゃんを味わいつくそう!今はそんな気持ちです。もし子育てでくたくたになっちゃったママがいたら、「完ぺきじゃなくていいよ〜。もっと楽しんでいいんだよ。」そんな声をかけてあげたいです。
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そしてそのためにはパパの協力がとっても大事。

これを読んでくださったパパ。ママに息抜きする時間をいっぱいあげてくださいね(*^_^*)

そして、身をもって母を育ててくれた長女にはありがとうと言いたいです。
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2009年9月号