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ママとパパのリレーエッセイ
ー第133回ー
JUNさん

卒園・卒業シーズン到来の3月。数年前に、あるCMで流れていた親子の会話を思い出しました。

野球少年の息子「僕、イチローみたいになれるかな…」
父「なろうと思ってなれるもんじゃないよ。でもな、なろうと思わなきゃ、なんにもなれないよ。」

社会の中で現実と格闘している父親が、息子に夢を持つことの意味を語るシーン。
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「人生を自分らしく、力強く生きていってほしい」と願う親の愛情を感じました。私もいつか子どもができて、こんな言葉をかけてあげられたらかっこいいかな~(笑)と思い、メモに残しておきました。

 私は三鷹市内の保育園で保育士として働き、もうすぐ8年目になります。嬉しさも悲しさも全身でありのまま表現する子ども達と毎日を過ごす中で、ふと、自分の子どもの頃の記憶が蘇ることがあります。
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出かけに激しくわがままを言ったときの母の呆れ果てた顔、姉や妹とけんかをしてこんこんと叱られたときの涙の味、疲れて寝ている父の上に飛び乗ったときの怒りたい気持ちをぐっとこらえる父の顔…。(私を育てるのは本当に大変だっただろうな…でも、毎日休まず伸び伸びと育ててもらったんだな…)と思うと、親に感謝してもしきれないと、この仕事をしてからしみじみと思うようになりました。
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私の家族は、寡黙で真面目な父、人面倒見のいい心配性の母、ちゃきちゃきで長女気質の姉、体育会系姉御肌な妹と、私の5人家族です。

 きょうだいの歳が近いこともあって、思春期の頃までは小さなことで大きなけんかをよくしました。その分、お互いのことは本人よりもわかっているので、今ではよく3人で吉祥寺の居酒屋さんで飲みながら、尽きない話をしています。母の願いの一つは「きょうだい仲良く」だったので、一つは叶ったようです。 
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子どもの頃は休みの日に時々、工務店を営んでいる父の仕事現場に連れていってもらいました。遊び道具は角材とノコギリとげんのう(金づちみたいなもの)。「よく来たね!」とワイルドなひげの大工のおじちゃんに、ジョリジョリと頬擦りをしてもらい、可愛がってもらいました。お客さんの喜ぶ姿を見て父の仕事に憧れて、同じ仕事をと夢見たときもありましたが、私の頭は理系には耐えられず泣く泣く断念しました…。
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「決めたことは忍耐強く」とか「感謝を忘れないこと」とか、師弟関係の中で仕事を覚えてきた父らしいアドバイスは、子どもの頃よりも今の方がふと思い出して自分を戒める機会が多い気がします。 

人と話すのが大好きな母は、スーパーで初めてすれ違った人とも、さも知人かのように話し始めます。口癖は「”気をつけて”○△□~。」
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…百万回は聞いたと思います。子育ての話になると「過ぎちゃうとあっという間よ。でも、渦中のときは必死だったから、楽しいとか思う余裕がなかったね。みんな可愛かったし、振り返るとほんとーに楽しかったんだけどね。」と語ります。(保護者もそういう心境なのかな…)としみじみとしながら油断して聴いていると、「孫の代が楽しみだわ~」と、今の母の最大の願いを、ここぞとばかりに全く隠しきれていない隠語に乗せて付け加えてきます…
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 子どもはお母さんのお腹にいるときから個性があって、自ら様々なことを取捨選択して育っていると言われています。 好きなこと、向いていること、苦手なこと、向いてないこと、これから様々なことを経験して、感じて、選択していく子ども達。その中で見つけた”夢“は、子どもの毎日を輝くものにしてくれます。
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 冒頭の野球少年は、イチローにはなれないことに勘づいていながらも、お父さんに確かめるように真剣に質問していたのではないかなと思います。息子を一人前の人間として見て、質問に真剣に答える父親の言葉に、(こんなとき、子どもは大人に一歩近づくのかも知れないな…)と、保育者として子ども達の心の中を想像しつつ、母の最大の願いを聴きながしていた早春の夕暮れどきでした。
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