東京都私学財団主催

「週刊こどもニュース」元お父さん役池上彰さんの
『子どもに伝わる話し方』

講演会レポート

NHK総合テレビ『週間こどもニュース』のお父さん役で活躍していた池上さんによる講演会を聞いてきました。
こども達から発せられる「これなに?」「どうなっているの?おしえて!」にどのように説明したらよいのか、どのように話せば伝わるのかということを、池上さんが番組を制作してきた中での沢山の体験をもとに教えていただきました。

『週間こどもニュース』は世の中で何が起こっているのか、普段のニュース番組で扱っていることを子ども(小学校高学年〜中学生くらい)にも分かるように伝えることを意図して、今年の3月まで毎週土曜日の夕方、生放送で放映されていました。
池上さんはもともとNHKの番組制作スタッフなのですが、この番組では子ども達にお世の中のことを説明するお父さん役で登場していらしゃいました。10年ほど続いた番組だったため、初代〜4代目まで、子ども達とママ役のタレントさんは大体3年間のクールで交代になったそうです。

生放送の番組だったので、毎回子ども達から仰天するような「これってなに?」という発言があったそうです。どんなに番組の準備を入念に行なっても、製作側が分かった気でいることが、実は子ども達には伝わっていないのだ、ということを実感していたそうです。



三菱自動車リコール隠し、というニュースを取り上げて説明していたときに、「安全性に問題がある」という言葉を使って説明したところ、その言葉が子ども達には分かりづらい。私達大人はつい、「なんで分からないんだ!」と言いたくなるのですが、それは、説明責任の棚上げなんだよ、説明した気になっていただけと池上さんはおっしゃいます。

某大学のワンダーフォーゲル部の学生が冬山登山で遭難した事件を説明しようとしたところ、ニュースの内容を説明する前に、子ども達から「なんでそんなに寒くて危険なことをわざわざやりに行くの?」という疑問が飛び出したそうです。登山とワンダーフォーゲルはちょっと意味合いが違うので、適切な語句を見つけるのに苦心し、子ども達に何通りか話した中で、
「ワンダーフォーゲル部という、山登りを楽しむクラブのメンバーが、クラブ活動で冬山に登ったところ・・・」
という説明で納得してくれたそうです。

当たり前のように使っている語句でも、子どもには実は分かりづらい。分かりづらいと思っていることを大人がどれだけ気付いてあげられるか?自分の常識だけで話してはいけない。相手に対する想像力(=思いやり)を持つことが、大切なんだよ、と池上さんはおっしゃいます。

また、こんなこともあったそうです。
雪印事件で
「大阪市は雪印に対してスーパーマーケットやコンビニエンスストアから回収するよう行政指導した」
と説明したところ
子どもたちからは「大阪市がどうして指導できるの?」「行政指導ってなに?」との質問が。
そこで、大阪市を大阪市役所 に 行政指導を〜しなさいと言った  と説明をしたそうです。ここはいつもどおり。語句の言い換え、分かりやすい言葉を選んで置き換えることでOK。
ですが、「回収」の説明を、集める、ひきあげる・・・・いろいろな言葉で説明しようとしたら逆に
「なぁんだ、回収のことかー、回収って言葉くらい知ってるよ!!」
と言われてしまったそうです。

あまり優しく言い過ぎても、相手に対して失礼になることがある、とのこと。説明をする、というのは根気と工夫と努力が要るものなんだな、と暗澹とした思いになりかけてしまいました。でも、相手に伝えようという熱意をもっていれば、必ず伝わるよ、ともおっしゃっていました。

番組制作で、『子どもニュース』のスタッフは大人でも子どもでも「分からない」といってよいルールがあったそうです。「なんでそんなことが分からないの?」は禁句。

番組を製作する段階で
北朝鮮の住民が亡命を図った、とのニュースを取り上げる準備をしているなかで、
「助かりたくて逃げるのに、『亡命』とは変な字だよね?」
との疑問。辞書で調べてみると、『命』には戸籍に登録する、という意味があるのだそうです。(命名、とは赤ちゃんが生まれて戸籍に名前を登録する、という意味なんですね!)
意気揚々と子ども達にそれを話したところ、、、「戸籍、ってなに?」との反応。。。



上記のような事例をユーモアを交えてお話してくださいました。
また、子どもが分からない(親も実はよく分かっていない)ニュースを説明するときのテクニック、裏ワザも教えてくださいました。

分からないニュースは何が分からないか分からないから、もどかしい。
子どもには理解するのは無理よ、大人になれば分かるよ、という答えでは、親も分かっていないのが子どもにバレてしまう。
「いい質問だね、キミはどう思う?」と時間稼ぎをして、
「一緒に調べようか?」と誘う。「調べなさい」ではこどももやる気をなくしてしまうのだそうです。
一緒に調べて親子で発見する楽しみを見つける、知ることは楽しいと思わせる。。。これが秘訣だそうです。

説明しづらい出来事の説明を求められたときの方法も提示してくださいました。

イデオロギー、宗教など、それぞれの価値観による衝突の事件では、背景と事実のみを伝える。ある意見があれば反対意見もあるのだ、と教える。知識を与えた上で「・・・でも、判断するのは君自身なんだよ」と判断はその子自身に任せるのだそうです。

また、会場の聴講者から「人身売買、強制わいせつ、ってなに?と聞かれたとき、どうすればいいのですか?」との質問がありました。
性問題などがニュースで流れるときは、親がフォローしたほうがよい。『強制わいせつ』とは無理やり恥ずかしい嫌なことをさせるということなんだ。いけないことだよね、だから逮捕されるんだよと説明し、「いけないことはいけない」とはっきりと親から伝えるべきです、とおっしゃっていました。

2時間ほどの講演でしたが、とても楽しく聞くことができました。これから私もいろいろな質問を子どもから受けるかもしれません。親子で調べる楽しみを経験できるといいなと思っています。

reported by sara

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2005年8月号