力を抜いて,ゆったりと・・・・

第12回  作家灰谷健次郎を偲んで

■三鷹での講演会のこと 

 昨年11月末に、作家灰谷健次郎が亡くなりました。2000年の秋に三鷹で講演会があり、
どうしても行きたくて、無理をして出かけたのを覚えています。
灰谷健次郎の「兎の眼」や「太陽の子」を、小学生だった息子と一緒に読み、感想を語り合ったり、
私自身、親として子育てや教育について、沢山の示唆や勇気をいただいた思い入れのある作家だったので、
是非生のお話をお聴きしたいと思ったのでした。

 主催がどこだったかは覚えていませんが、会場は先生風の人が多く、灰谷さんも学校の先生相手にお話されているような
感じでした。内容は沖縄の基地問題、渡嘉敷島の教育環境、教育事情から、ひいては今日の教育改革の
必要性まで盛りだくさんで、思い切って出かけてよかったと思ったものでした。
三鷹市公会堂の演台から降りて、会場の方とおなじ高さからお話されたことはとても印象的でした。
 

■渡嘉敷島のお祭りのこと

 沖縄の渡嘉敷島のお話が特にこころに残っています。渡嘉敷島の人々はお祭りをとても楽しみにしています。
しかし、お祭りに参加できない人というのが、決まっているのだそうです。
それは、盗みなど罪を犯した人。それと、身体に障害のある人や、こころを病んでいる人を
粗末に扱った人なのだそうです。いわゆる心身障害者(この言葉はどうも嫌いだから、
何か良い言葉がないか考えていると言われていました。)は沖縄では神の子と呼ばれ大切
にされているということです。長い長い年月の間に生まれた、うまく暮らしていくための
知恵なのでしょう。島のこどもたちは、道徳として教室で教えられるのではなく、このようにして、
自然に身体とこころで生きることを学んでいくのだということでした。

■島のこどもたちは、自然の中で多くのことを学んでいる。

 渡嘉敷島は僻地として扱われているそうです。僻地ということを認めなければ補助金がおりないそうなのです。
僻地教育などといわれ、学力が低いとみなされていることに、灰谷さんはなかばあきれられていました。
島のこどもたちは、自然の中で多くの事を学んでいるし、それを支える両親、祖父母、地域の人々がいる。
魚も鳥も虫も動物も植物も見て触れて親しんで、それから学校で調べる。
自分たちで絵を描いた図鑑を作っているそうです。その図鑑の蛸は、わたしたちがイメージする蛸とはちがって、
珊瑚の形をしているのだそうです。実際珊瑚礁の海、沖縄の蛸は珊瑚の形になっていて、目を見つけないと
素人にはわからないと聞きます。そしてその図鑑には、下の方に料理の仕方や、
刺身がうまいなどというコメントが入っていたりして、生活感溢れる楽しいものになっているということでした。

■本当の教育は渡嘉敷島のような所に存在する

 知識のみを重視すれば学力は低いかもしれないけれど、たとえば漢字など辞典で代用できる知識は学力ではないし、考える力、工夫する力こそが大事なのだから、本当の教育は渡嘉敷島のような所に存在するのではないかと言っておられました。自由保育がいいとか放任がいいとか言って、子供を好き勝手にさせる先生がいるけれど、放っておいて、子供にエネルギーを溜めさせて、その向かう方向が見つかった時に大人が手助けをしてやらなければいけない、そこをじっと見守るのが大人の努めではないかという話に、当時の私は、(もちろん今も)ものすごく共感しました。
 日に焼けて、元気そうなおっちゃんという風貌の灰谷健次郎。思った事は周りを気にせずどんどん言ってしまう方だったらしく、トラブルも多かったことでしょう。そしてそういう人がいて、その人に共感し支持する人がいることのなんと心強いことか。
だから、まだまだお若かった灰谷健次郎が亡くなったことがとても惜しまれるのです。
 講演会場の先生方に、「自分が正しいと思った指導はどんどんやりなさい。上を恐がってはだめです。
いざとなったら子供と親が必ず味方になってくれるんだから。」と激励されていたのを思い出します。
あれから7年がたち、教育現場はますます混迷を深めています。灰谷健次郎のような子どものこころをしっかりと
見つめ、本当の教育は何かを考える先生が一人でも増えることを祈らずにはいられません。

 この冬休みに、久しぶりに沖縄に行ってきました。しばらく手にとっていなかった灰谷健次郎の著作、「風の耳たぶ」を途中で読もうと持って出かけました。この本は、老夫婦の話でしたが、子育てや人生についてこころに残る言葉に満ち溢れていました。その話は次回にしましょう。

 2007年が、こども達にとって、明るい年になりますよう!
今年も、「力を抜いて、ゆったりと」続けていきますので、よろしくお願いいたします。



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nana


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2007年1月号


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