力を抜いて,ゆったりと・・・・


第45回   不登校を考える



史上最高の猛暑と言われた今年の夏、みなさまどんな夏休みをお過ごしでしたでしょうか。
ご家族で旅行に行った方、田舎でのんびりした方、遠出はせず、近くのプールへいったり、サッカーや野球など子どものスポーツのお付き合いだった方など、それぞれに楽しい思い出ができたことでしょう。
さて、新学期が始まり、しーんと静まりかえったリビングで、ホッと一息というお母さんがほとんどだと思いますが、中には、病気や怪我で、家族の誰かがいますというお宅もあるかもしれません。
わたしは、新学期というこの時期に思い出すことがあります。
今月は、不登校について書いてみます。

■新学期直前の淡い期待
今大学生の娘は、小学生の2年生の終わりころから、卒業まで、登校したりしなかったりを繰り返す、いわゆる不登校児でした。
わたしは、長期の休みが終わり、そろそろ新学期が始まるというころになると、なんだかそわそわと落ち着かない気持ちになったものです。
というのは、進級時、または、長期の休みの後が、学校に通い始めるきっかけになることが多く、親としては、「今度こそは、不登校生活に終止符を打てるのでは?」とつい期待をしてしまうのでした。
子どもが学校に行かないというこの異常な事態からなんとか早く抜け出したいと、当時頭の中は、そればかり考えていました。
でも、子どもに「どうするの?」と聞くのは、禁句。平静を装って、期待している様子は見せず、本人が何か言ってくるか、自分から学校の準備を始めるのをじっと待つのです。
そのような、接し方は、相談したカウンセラーの方に教えていただいたり、本を読んだり、悩みながら身につけていきました。
もちろん、我慢できずに、つい、「2学期はどうするの?」なんて聞いて、あとで「しまった!」と思ったことは、何度もありました。

■不安な毎日
娘が学校に行きたくないと言い始め、わたしは、単なるわがままだと思い、手を引いたり、車に乗せたりして、無理やり学校へ連れて行くことを繰り返した時期もありました。
まだ2年生でしたので、理由を聞いても、はっきりしたことは何も言いません。教室が荒れているなど、思いあたる理由がなかったわけではありません。
しかし、学校に行くのが当たり前だと思っていた私は、学校にも行けないこの子は、甘やかされたわがままな人間になってしまうのではないかと、ちゃんとした大人になれないのではないかと不安で胸が押しつぶされるようでした。
自分の育て方が悪かったのだろうかと、生まれてからの8年ほどを振り返り、何が悪かったのかと、こまごまと思い起こしてはため息をつく日々でした。
自分のしてきた子育てへの自信どころか、これまでの自分の人生への自信も根底から崩れていました。
不登校に関する本を読み、講演会に出かけ、問題解決のために自分に出来ることは何でもしました。
担任の先生に勧められて、教育センターへ相談に通い、カウンセラーの先生に定期的に話を聞いていただき、学校とも連絡を取りながら、4年ほどを過ごしました。
その間、新学期が来るたびに、淡い期待に胸を膨らませては、がっかりするということを繰り返していたので、特に夏休み後の9月は、その頃の記憶がよみがえります。

■子どもは、どこにいても、何からでも学ぶものだ
月に数日は、学校に行っていた娘が、何カ月も続けて学校に行かなかったことがありました。どうしても行きたがらないので、先生や、カウンセラーの方と相談して、しばらく様子をみることにしました。
もうこのままずっと家で育つのだろうか、勉強は、どんな風にさせればよいのだろうか、娘と何をして過ごせばよいのだろうかと悩んでいた頃、東京シューレという不登校の子どもの居場所を知りました。
そこの代表の奥地圭子さんの講演会に行った時、子どもの不登校で悩む親から、「うちの子は、学校にも行かず、毎日家でごろごろしていて、ゲームばかりしていてるけれどどうすればよいでしょう?」という質問がでました。
奥地さんは、「ゲームをやりたいという意欲があるだけでも良いことだ。子どもは、学校だけで勉強するのではありません。周りにあるもの何からでも子どもはさまざまなことを学んでいます。
テレビからでも漫画からでも、言葉や文字は覚えられます。子どものやりたいようにさせておけば大丈夫。大人は子どもの後からついていけばいいのです。」と言われました。
その言葉は、にわかには、信じられませんでしたし、当時の私には、すんなりと理解することはできませんでした。
しかし、何度か、東京シューレの親の会に通ったり、奥地さんや保護者の方の体験談などをきくうちに、その言葉の意味が少しずつわかってきました。
子どもがごろごろしているのは、エネルギーが切れているから、元気を取り戻したら、必ず何かを始める。子どもがやりたいことをみつけてやり始めたら、親は黙って見守り励ましてやればいいのだと。
親にできることは、せいぜいその程度。そして後は、子どもを精一杯信じてあげるだけでいい。
親はどうしても、先回りして、道を作ってあげたくなってしまいます。ちょっとでも楽な方に行かせたいと思ってしまいますが、子どもにとっては、迷惑な話なのです。
子どもは、自分で決めたことには、努力を惜しまないし、最後まで頑張る力を持っているのです。そして自分で決めたことを、最後までやり遂げた時に、大きく成長しています。

■愛子さまの不登校
今年に入ってから、新聞や週刊誌で愛子さまの不登校の記事を目にします。始業式や終業式に出席されたとかされないとか、細かな情報が新聞などに出るたびに、娘の小学校時代を思い出し、雅子さまのお気持ちをあの頃の自分に重ね合わせて考えると気の毒でなりません。
当時、娘の同級生のお母さんに、「まだ学校に復帰できないの?」と、親切心から聞かれただけでも、みんなと同じようにできない娘を非難されたように感じて、深く傷ついたものでした。一民間人の私ですらこうですから、日本中から注目され、色々と無責任なことを、書かれる雅子さまがどれほど傷ついておられることか。
学校に行かないこと、行けないことへの、理解のなさは、10年ほど前とあまり変わっていないようです。
人が育つ過程には、さまざまなことが待ち受けています。何らかの理由で学校がその子に合わないということは、誰にでもありうることです。
勉強はどこでもやろうと思えばできますし、自分にあった居場所を見つければ、また、親子関係がちゃんと築けていれば、社会性を身につけることは、いつでもできるのです。

■一見マイナスに見える経験も、乗り越えたからこそ見えてくるものがある
娘の不登校は、もう10年以上も前のことになってしまいました。今では、単なる思い出の一つになってしまいましたが、未熟だった私には、まさに青天の霹靂、人生の試練といっても大げさではない出来事でした。
そして、そんな娘と付き合ううちに、「学校は、行かなければいけないところ。勉強は、一度遅れると取り戻しがつかない。」など、それまでの自分が持っていた常識は、つぎつぎに覆されていきました。
その頃学んだ、子どもとの接し方です。
子どもが何か言ってきたら、とりあえず否定しない。「そうねえ。」と同意するか、同意できないときでも否定をせずに、「そうかなあ。」と答えておく。
子どもと会話の接点がない時は、「そうねえ。」か「そうかなあ。」のどちらかで対応していれば、引っかかりがないから、対立せず、だんだん会話が生まれて来ます。
親から見てとても同意できないようなことを言ってきたとしても、「そうかなあ。」と受け止めて、子どもの立場に立って気持ちを理解しようと努めてみました。
娘は、ものすごく反抗してきたり、荒れる時もありましたが、子どもが興味を持つ本を一緒に読んだり、好きな音楽を一緒に聴いたりしているうちに、今では、わたしの趣味を良く知っている理解者であり、すっかり大人の会話を楽しめる関係になっています。

娘は、この夏、アルバイトをしたお金で、東欧一人旅という冒険をしました。若い女性の一人旅など昔は、考えられませんでしたので、親として許してよいものか、事件などに巻き込まれてからでは、取り返しがつかないなどと、散々悩みました。
しかし、本人の意思は固く、夫とも話しあった末、宿泊先だけは、決めていくという条件で送りだしました。
ちょっとしたトラブルは経験したようですが、無事2週間の旅を終えて帰ってきた娘は、すっか自分に自信をつけたように見えました。
私自身も母親として、何か一つ乗り越えたように思います。
こうして、わたしのスカートにまとわりついて泣いてばかりいた娘は、幼稚園のお泊まり保育で初めて親元を離れ、歩いて10分ほどの小学校に一人で行くようになり、不登校で家で過ごした時期もありましたが、
バスと電車で、少し遠い中学、高校に通うようになり、修学旅行や、友だちとの旅行など、親の目の届かないところに出かけるようになり、ついには、地球の裏側までたった一人で、出かけていくようになってしまったのです。
幼稚園のお泊まり保育に出した時のドキドキも、東欧に送りだした時のドキドキも親にとっては、同じドキドキでした。

娘の不登校を通じて、わたしは、さまざまな価値観や、物事の多面的な見方を身につけることができました。一見マイナスに見える経験でも、乗り越えたからこそ見えてくるものがあります。
子どもを育てることで学んだことは、本当にたくさんありました。


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nana


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2010年9月号

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