第77回 子どもとともに広がる世界
■今年のカウントダウンは・・・
明けましておめでとうございます。
今年は、暦のせいで最大9日の休みが取れるという事で、夫と一緒に留学中の娘のところで新年を迎えました。
娘は今、現代美術の研究で、東ヨーロッパにあるセルビアと言う国にいます。
旧ユーゴスラビアと言った方が、ピンとくる方も多いかもしれません。
留学すると言い出した時は、良く知らない小さな国だし、危険ではないかと、ずいぶん心配しました。
大学院の先生の紹介で現地でいろいろお世話をしてくださる方もいるという事でしたが、隣の国ルーマニアで日本の女子大生が殺害されるという事件があったばかりの時だったので、
何かあったら取り返しがつかないと怖い思いが先に立っていました。
■想像もつかない国
実際に現地に行ってしまってからは、スカイプなどで顔を見て話ができるし、メールのやり取りもあるので、それほど遠い感じはしませんが、何しろどんなところなのか想像もつきません。
日本で便利な生活をして育っているので、生活面で不自由はないか、いろいろな物はそろっているのかなど心配の種は尽きません。
娘にきいても、「大丈夫!」と言うばかり。そしてそればかりか、この国がとても気に入ったと言っています。
これは、一度この目で確かめてこなくてはと、この休みを利用して夫と現地に向かったのでした。
■にぎやかな年明け
イタリアに2泊寄り道をして、31日夕方セルビアのベオグラードの空港に着きました。
入国審査を終えて外に出ると、満面の笑みで手を振る娘を発見。
「二人がここに来るなんて、なんだか信じられないなあ〜」と言いながらも、ホテルまでのタクシーの手配などセルビア語でやってくれました。
ホテルに着いて、ちょっと休んでから、街に出て簡単に食事をし、疲れていたので、カウントダウンまでホテルで休憩。
11時半頃に、外に出て議事堂の方に向かいました。ここに大きなステージが作られ、国民的歌手の方が歌っていました。
とにかく、ものすごい人で、警官も出て、会場方面に行く人の検問をしていました。
人の波に巻き込まれると危険なのでステージの方には近づきませんでしたが、今までみたこともないようなにぎわいでした。
そして、12時少し前になると、カウントダウンが始まり、年が明けると花火と爆竹の嵐。
爆竹は、あちこちで鳴り、爆弾みたいな大きな音のものもあり、怖かったです。
そんなわけで、これまで体験したことのないにぎやかな年明けとなりました。
■安全で食べ物も豊富な国
セルビア正教のクリスマスは、1月7日ということで、お店などこの時期はお休みになるらしいのですが、そのかわり新年は、ほぼ平常営業でした。
3日間の滞在中、ドナウ川とサバ川の合流地点を見渡せるカリメグダン城砦公園や、聖サバ大聖堂、チトー博物館、チトーのお墓がある花の家など市内の観光をしました。
NATO軍の空爆の跡が生々しく残る、空爆通りも見てきました。
地下鉄はなく、市電とバス。日本から寄贈された黄色いバスも走っていました。
91年に旧ユーゴが崩壊し、ボスニア紛争突入など少し前まで激動の地だった場所ですが、町を歩いていても全く危険な感じはなく、むしろ西ヨーロッパの大きな都市よりも安全と言えるかもしれません。
「食べ物はどんな感じ?」とスカイプで聞いても、「普通。肉とか・・・」と言っていたので、期待していなかったのですが、これがトルコ、ギリシャ、イタリア、ロシアなどさまざまな料理が混じっていて、種類も多く野菜もたっぷりでおいしいことがわかりました。
後で聞いたら、料理の名前がわからなかったから説明できなかったのだとか。
一人前の量が日本の1.5から2倍くらいで、良く食べる民族で、食べるだけでなく、良く飲み、よくしゃべります。
ラキアという果物の蒸留酒を食事の時に飲むのですが、かなりアルコール度の高いものです。でも慣れると香りが良く、おいしいことがわかりました。
ワインも良いワイナリーがたくさんあるそうでなかなかの味でした。
娘がお世話になっている方々と食事をすることもできました。
いずれにしても、街は安全だし、食べ物も豊富で、親切な方が多い、住みよい街だという事がわかり安心しました。
■戦争を知る事の大切さ
セルビアという国に行くことになり、全く知識がない私は、ベオグラード大学の文学部教授で、詩人の山崎佳代子さんの本を3冊読みました。
山崎さんは、留学生として旧ユーゴスラビアのサラエボ大学に来てから、この地に住み続け、戦争の間もずっとベオグラードを離れずに、詩を書き続けたのだそうです。
『そこから青い闇がささやき』は、旧ユーゴスラビア、NATO軍による激しい空爆下で、詩作を続けた山崎さんの胸をうつエッセイ集、『ある日村は戦場になった』は、戦争を体験したバチュガの子どもたちと島根県大田三中の子どもたちを結んだ絵と手紙の記録です。
『解体ユーゴスラビア』は、旧ユーゴスラビアの内戦が本格化した1991年の7月から、ドイツがスロベニア、クロアチア両共和国の独立を承認した12月23日までの6ヵ月ほどの間に、主に、ベオグラードに難民として逃れてきた人々を中心に、知人や同僚などの話を聞き書きした証言集でした。
詩人の持つ不思議な力と感性を感じることができ、どの本もお奨めです。
民族問題、とりわけバルカン半島の民族対立は、私たち日本人には、複雑すぎて、理解しがたいものですが、どの様にして人々が戦争に巻き込まれて、庶民や罪もない子どもたちまで犠牲になっていくのか、人間の怖さ、政治の力の恐ろしさなどを市民の目線から身近に感じさせてくれる素晴らしい作品です。
つらい悲しいことがたくさん出てきますが、それらから目をそらしてはいけないと思いました。
これまで遠い他所の国の話と思い関心を持てずにいましたが、この機会に当時の様子を本を通して知り、自分の無知を恥ずかしく思いました。
戦争はいつどこで、どのようにして起きるのか分かりませんので他人事ではないと感じます。
戦争の怖さをこのような本を通してもっと多くの人々に伝えていかなければいけないと感じました。
■自分の世界を何倍も広げてくれる
このように、2014年は、異国で迎えた年となりました。
まだまだ子どもだと思っていた娘ですが、娘の方はこちらを老親と思っているようで、色々と気を使っている様子。このようにして、力関係が少しずつ逆転していくのかなと思いました。
子どもを育てて良かったことの一つに、自分の世界を何倍も広げてくれるという事があります。
もちろん子どもがいなくても沢山のチャンスはあると思いますが、自分の興味や関心と離れたところにルートを開いてくれるのは、いつも子どもだったような気がします。
子どもがいなかったら多分一生行くことがなかっただろうセルビアが、今は身近な国に感じられるのが不思議です。
今年は、島国根性から脱却して、もっと大きな視点で物事を見ていかなければと思っています。
今年も、”子ども・子育て支援”について、このエッセイで考えていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
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nana
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2014年1月号