第93回 その人にしかわからないことがある
■梅雨入りも間近
運動会も終わり、あじさいの季節がやってきました。
夏休みの計画などがご家庭の話題になるころでしょうか。
今月は、最近読んだ本の紹介をしたいと思います。
「発達障がい」という言葉が、自閉症、アスペルガーなどの単語と一緒に、テレビや新聞などで頻繁に取り上げられるようになりました。
障がいについての一般の知識や理解が深まる事は良い事なのですが、軽度のものから重度のものまで幅が広い障がいなので、軽いものについては、健常なケースとの境界がわかりにくく、誤解も生じているような気がして気になります。
■発達障がいが原因!?
夫婦の関係がうまくいかないことについて、主に夫の発達障がいが原因であるとわかり接し方を工夫して改善されたなどの体験談や本がたくさん出ているようです。
発達障がいの夫を持つ妻をカサンドラ症候群と呼ぶとか。
特に男性に発達障がいが多いといわれることから、家の夫もとか、家の息子もとか・・・つい思いがちで、そこのところが心配です。
このテーマについては、もう少し本を読んで、調べてみたいと思っています。
「発達障がい」についてアンテナをはっていたところ「飛び跳ねる思考〜会話のできない自閉症の僕が考えている事」という本を知りました。
東田直樹さんという重度の自閉症の方が書かれた本で、今は多くの言葉に翻訳され世界中の自閉症のお子さんを持つ親やご家族の方が、障がいを深く理解するきっかけになっているということです。
わたしは、東田さんが文字盤を使いながら、インタビューを受ける様子をテレビで見て、彼が外の世界に必死に伝えたいことを知りたくなり、この本を手に取りました。
■「その人にしかわからないことがある」という事を伝えたい
障がいの事、自然とのふれあい、家族のこと、命、人生、生きることそしてしあわせについてなどたくさんの短い文章が入ったエッセイ集ですが、一編ごとに込められた想いが、わたしの心に沁み込むように入ってきます。
詩を読んでいるような、心を洗われるようなそんな気持ちになる不思議な力のある文章でした。
また、非常に知的で、人生を深く洞察した文章に敬意をいだきました。
こんなに豊かな内面を秘めているのに、自分の思い通りにならない身体のせいで、外の世界とのコミュニケーションに大きな困難を抱えているだなんて、どんなに苦しく、悲しい事なのでしょう。
一緒に暮らすご家族も、文字盤を通して東田さんの内面と関われるようになるまで、ずいぶん苦労をされたことと思います。
東田さんは、障害がある事を不幸だとは思っていません。
「その人にしかわからないことがある」という事を伝えたいという思いで文章を書いていると言っています。
文章を書くことは、自分にとって息をするのと同じように自然な事なのだそうです。
身体の制約はあっても、心は自由である事、人間のすばらしさが、文章から伝わってきます。
東田さんは、ご自分の障害のこと、社会との関わり、自分の人生についてとても冷静に、客観的に見て、正直に思いのまま文章に表現しています。ご自分の他人から見たら不思議な行動についても説明しています。
わたしは、社会福祉の実習で、自閉症の方と接したことがありましたが、その時は、その方々の中にも豊かな内的世界が広がっていることを想像する事すらできず、小さな子どもに対するような接し方をしていた自分を恥ずかしく思いました。
■想像力と人を理解しようと思う気持ちがあれば・・・
東田さんの文章に触れると、障がいの有無を超えたところに、人と人との心のふれあいがあり、心は本当はとても自由だということに気づかされます。
どんな人でも、一人ひとり考え方や感じ方が違います。得意不得意も違います。
自分の想像力には限界があり、人を簡単に理解することはできません。
夫婦、親子、友人、職場などの人間関係に、人はいつも悩みますが、自分の知らない世界、その人にしかわからないことがたくさんある事を知っていて、想像力をはたらかせ、相手を理解しようと思う気持ちがあれば、多くの問題は解決するのではないかと思います。
日々子どもを育てていて、うまくいかないとき、大人の理屈から離れて、ちょっと立ち止まって子どもの気持ちに寄りそってみませんか?
この本との出会いは、わたしにこれまで想像もしなかった新しい世界を教えてくれました。
東田さんは、エッセイの他、詩集、絵本などたくさんの作品を書いておられることを知り、もっと読んでみたくなりました。
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nana
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2015年6月号