よもぎBOOKSを立ち上げたチカラ~第1回「これまでのこと」

公開日 2018/07/20

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第1回 「これまでのこと」

はじめまして、三鷹市下連雀4丁目にある小さな本屋「よもぎBOOKS」を運営している辰巳と申します。

よもぎBOOKSは「セレクト書店」と呼ばれるジャンルのお店です。小さいお店ですから、世の中に出回っている書籍のごくわずかの本しか置けません。大型書店の広い面積に並べられたたくさんの書籍は魅力的です。しかし眼の前に広がるのは小さな部屋。この狭さをどう活用するかを考えた結果、お店の個性を全面に出した選書をして、お客様に体験的に楽しんでもらうことを目的としました。小さなセレクト書店は小回りがよく効くのが魅力でもあります。

またよもぎBOOKSは「消費されない本」「人生の出逢い」をコンセプトにしています。「読んで終わり」ではなく、繰り返し読んだり、読みつがれたり。本だからこそ広がる世界を、しっかり楽しんでもらいたい。また、読書を通して想像力を培い、人生を豊かにしてもらいたい。そう思って、絵本を中心にさまざまなジャンルの本を選書しています。

3回の連載を通じて、これまでのこと、今のこと、そしてこれからのことについて、書いていきたいと思います。今回は「これまでのこと」。私の本屋さんの原点、そしてお店を開くまでのことを書きたいと思います。

●本のおかげで生き直す

幼少期、外食帰りには親にいつも本屋さんに連れて行ってもらっていました。行くたびに買ってもらえるのは1冊だけ。その1冊を何十分もかけて真剣に選ぶのが至極の楽しみでした。

どの本も「読んで」「連れて帰って」と語りかけているような気がしました。真新しくきらきらしている本もあれば、じっと何年も買われるのを待っている本もいる。
この場所にいれば、退屈はしない、そう思っていました。

学生時代に心理学を専攻していた頃は、先人の知恵が詰まった学術書を毎月1万円分は買って読んでいました。アルバイトで稼いだお金を難解な本を入手するために費やせるのはとても幸せな気分でした。自分と先人をつなぐ、自分だけの本。それは今でも特別な関係だったと感じます。

本当は心理学の専門に就きたいと思って勉強していたのですが、20代前半に挫折をします。
今思えばそれは全く決して無駄な時間ではなかったのですが、挫折をした1年間、当時は絶望ばかりを感じている毎日でした。誰とも話たくない、テレビもラジオも耳障り。自分は世界でひとり取り残されたと思っていました。

そんなときにそばに居てくれたのも本でした。本はただそこにあって、私が手に取るのをずっと待っていてくれていました。本屋さんはそんな絶望まみれの私でさえ迎え入れてくれる場所でした。
ひたすらに本を読み続ける毎日。
結局、本から得た知識のおかげで絶望の淵から生き直すことができたと思っています。

そこでこれからは本のために生きようと、2006年頃に大好きな大型書店で働くことを決意します。
どんな部門でもいいから本の近くで働きたい。一人暮らしができるだけの貯金をつくり、勢いで面接を受けて、大型書店のWEB担当として仕事をはじめます。

日本では現在、実に多くの書籍が毎日毎日出版され、右から左へと流れていきます。毎日、たくさんの本が入荷しますが、同じくらいの量の本が返品されてゆきます。中には一度も手に取られることもなかった本もあるのかもしれません。
勤めていた大型書店でそれをずっと毎日目の当たりにしていました。

これが生き物だったら・・・と想像すると正直ぞっとしました。
それぞれの本に携わった人々の想いはあるはずなのに、それは関係なく返品されて倉庫に眠ってしまう。
倉庫に戻った書籍は一定期間経てば裁断されてしまうこともあります。

如実に現実を突きつけられました。現実に本屋が生き残るためには売れる本をたくさん売らなければなりません。本は消費されないといけないのです。それは1つの正しさなのですが、しかし一方でもっとゆっくり、一人ひとりの本の作り手の言葉を載せて本を売ることもできるんじゃないだろうかとも思っていました。

大きな本屋さんができること、得意なこと。
小さな本屋さんができること、得意なこと。
それぞれまったく違う楽しさがあることに気づき、いつか自分で両手を広げたくらいの小さな本屋さんをやりたいとこの頃から思うようになりました。

その後、東日本大震災後すぐに娘を授かり翌年2012年に出産します。

勤めていた大型書店は本に関われて楽しかったですし、しばらく在宅で仕事ができるように配慮いただいていたのですが結局さまざまな事情が重なり2015年に退社し、はじめて本にまったく触れない日々が訪れます。


●子どものそばで、本屋をする

本に触れていないと落ち着かなくなっている自分を発見しつつも、子育てをする身としては本屋さんの勤務時間にあわせることが難しい。

勤められないのであれば、自分で仕事をつくればいい、と思ったのはその頃です。

子どものそばで、本屋をする。

10年間抱き続けた夢を叶える時期がそう遠くないと思った私は夫や知人・友人に向かって「本屋がやりたい」と言い始めました。

一度言葉にしてしまうと引っ込みがつかないことに慄きながらも覚悟をきめて、本屋をはじめるための方法をあれこれと考えはじめました。実際に個人営業の本屋さんを見て回り話を伺ったり、さまざまな形態の本屋さんの可能性を探りました。

一番大事に肝に銘じていたのは、小さな子どもたちを犠牲にしないこと。子どもがいる今だからこそできることを、今の目線で考えること。

ある日、行きつけのお店でご飯を食べていたときのこと。
目線の先に「for rent」の張り紙がされているのに気づきました。ちょうどオープンスペースとなっていたそこは、倉庫だけど作り付けの木製の棚が目に飛び込んでくる素敵な場所でした。
子どもたちも楽しそうに走り回っています。その姿を見ながら、壁の色、棚のレイアウト、レジ台など、頭の中で想像が駆け巡ります。「ここならできるかも」と思うと同時に行動を起こしすぐに契約をしていました。

しかし、シミュレーションをすると、不安ばかりが頭をよぎります。子育てをしながら本当にできるのだろうか。本はどこから仕入れたらいいのか。収入はあるのか。

オープンしていない本屋に一喜一憂しながらも、周囲から反対の声はひとつもありませんでした。みんな「やってみればいいじゃん」と言ってくれたのです。
(勧めないよと言ったのは個人で本屋さんをされている方からだけでした)

周囲の後押しもあって「失敗してもいいから、とにかくやってみよう」と決意できました。

子育てをしながらの本屋営業はいろいろな苦しみがあります。また1年が経過して感じること、考えることはたくさんあります。次回はそのあたりのお話が書けたらと思っています。


よもぎBOOKSロゴ(アウトライン)700

よもぎBOOKSです。2017年3月3日に東京都三鷹市にて絵本を中心とした小さなセレクト書店をオープンしました。オンラインストアと山梨県のギャラリーカフェ・ナノリウムさんにも間借りして販売しています。
「絵本と本と人生の出逢いを」を主軸に、ただ消費されるだけではない、何度も読みかえす本、読むたびに思考に新しい示唆を与えてくれるような本をセレクトしております。

よもぎBOOKSではギャラリー展示やイベントも開催。絵本の買取・販売もしてます。

よもぎ店内201712月(店内風景

◎リンク
https://yomogibooks.com/


2018年7月号