公開日 2018/08/20
第2回「子育てと1年を経て学んだ本屋経営について」
こんにちは、三鷹市下連雀4丁目にある小さな本屋「よもぎBOOKS」を運営している辰巳と申します。前回は本屋オープンまでのお話を書かせていただきました。書かせていただいて改めて、自分がこの時代の本屋の経営者として取り組みたいことを見直せた気がします。
さて、今回は子育てと1年を経て学んだ本屋経営について今感じていることを書きたいと思います。
◎子どものいる環境を土台に
よもぎBOOKSは現在、平日11時~17時、土日祝は12時~18時にお店をあけています。
私は本屋を始めるにあたって、「子どものいる環境を土台として必ず考える」ようにしました。
幸いなことに子どもたちはふたりとも保育園に預けることが出来ましたので、平日の日中は仕事に集中する時間が取れます。ふたりは別々の保育園でしたが、徒歩で移動できる距離にありました。
お客様が仕事帰りに立ち寄れるように夜遅くまで営業したり、定休曜日を固定にしたかったのですが、オープン当時5歳と3歳の子どもを抱える母親として、それは今の自分のできる仕事ではないと苦渋の決断をしました。
平日は17時に閉めてしまうため「お店に行ったら閉まってた」とお客様からご指摘いただくこともあります。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。これから先、子どもたちの成長とともに少しずつ後ろに閉店時間を伸ばしていけたらいいなと思っています。
もうひとつの苦渋の決断となるのが、「突然の子どもの体調不良に対応しなくてはならない」ということです。
子どもを2人育てているということは、自分の身体が3つあるようなものです。その身体のどれか1つでも欠けたら仕事はできない。母親として、仕事をする人間として、リスクを負っていることをしっかりと自覚する必要がありました。
ただ、自覚してはいても「今日は臨時休業します」とSNSに書いて、お店に貼り紙をするとき、心苦しい気持ちでいっぱいになります。これは仕事と育児を抱えるほとんどの親が似たような経験をされていることだと思います。
私も例に漏れず、「今日営業できていたらお客様がたくさん来てくれていたかもしれない」と熱で疲れ顔の子どもを前にしても思ってしまい、自分を責めたりしています。
そういった毎日のなかで、さまざまな感情に揺さぶられながらもいまは自分の子どもたちの成長を第一に考えていきたいと思っています。
このような働き方を寛容に見守ってくださっている周囲のみなさまに感謝をしながら。
◎お店を通して子どもたちに伝わっていたらいい
子どもたちにはお店を始める前からたくさん絵本を読んであげていました。
私自身が本が好きなことはもちろんですが、本を読むと語彙力があがります。子どもが成長する中で自分の微細な気持ちを表現する言葉をひとつでも多く持っていてほしかったので、毎日1冊以上読み聞かせしていました。
そのように絵本が常にすぐそばにある生活が当たり前だったからか、子どもたちはよもぎBOOKSを「お母さんの本屋さん」という位置づけで、とても楽しんでいます。
楽しむ一方で、子どもたちはお店を「わが家」と思ってしまうことがあります。お店に来ては大声で喧嘩をするし、自由気ままに本を手に取り読み始めるし、接客中に「おかあさーん」と寄ってきてしまう始末。
せっかく手にとってくださった本も棚に戻されやしないかとお客様の方を見ながら冷や冷やしてしまいます。
そんな自由気ままな子どもたちにお店がどんなところであるかを何度も説明し、理解してもらうのには時間がかかりましたが、最近は店内で静かに過ごすことがだんだんと上手になりました。
月に4回の本屋で朝ヨガをするときの準備や、たまに上映している映画の準備も手伝ってくれます。上の子にいたっては朝ヨガに参加したときには1時間集中できますし、大人向けのドキュメンタリー映画でも座席に座っては静かに鑑賞できるようになりました。
自分が好きではじめたことに、子どもが興味を持ってついてきてくれている。その姿に私が信念を持ってやっていることは子どもたちにもちゃんと伝わっているのかもしれないと思うと、少し救われるような気がしています。
◎失敗してもいいからとにかく行動を起こすこと
よもぎBOOKSは個人経営のため同僚はいませんし、そりのあわない上司も気がかりな部下もいません。翌月のお休みもカレンダーを眺め、自分の予定を確認しながら「おやすみ」と書き込んでいます。細かな人間関係に心を痛めることはないので、その点では気が楽ですが、同時に相談できる相手がいない孤独も感じます。
また営業、経理、企画、運営のすべてを一人で担いますから、お店で起こるすべての責任は自分にあります。何をどうすれば多くの方に来ていただけるのかを、寝ても覚めても一人で考え尽くさなければなりません。
どうしたらお客様にお店の存在を知ってもらえるか。どうしたらお客様に気持ちの良い買い物をしてもらえるか。それが1年目の悩みでした。
そこで意識にいつも据えていたのは、「ダメでもいいからとにかく行動を起こすこと」。失敗してもいいからやってみること。それがすべての原動力。お店の知名度はないのですから失うものもない。とにかく2年、と区切りを心のなかで決め、その2年間でやりたいと思ったことは後悔のないように挑戦するという意識でした。
突然聞いたこともない本屋からオファーがあった作家さんや出版社の方はさぞ困っただろうなと反省します。しかし暖かくご協力いただいた関係者のみなさまのおかげで、作家の方々やお客様からも「あのお店はいつもなにかやっている」と思っていただけるようになりました。
作家さんとつながって嬉しそうに絵本を抱えて帰る親子連れのお客様の姿をみると嬉しい気持ちでいっぱいになります。
イベントを企画してもなかなか集客につながらず、三鷹の夜の街をひとりポスティングしていた頃が懐かしい思い出です。
そして2年目の今。1年目とはまた違った風景が広がっています。
東京では小さな本屋さんが新しく生まれたり、長く愛されてきた大きな本屋さんが無くなったりしています。
まるで生き物のような本屋さん。そして新刊として生まれては絶版として消えていく生き物のような本たち。
その生命の真っ只中で、これからの本屋のあり方について、終わりのない模索をし続けています。そのお話はまた次回。
よもぎBOOKSです。2017年3月3日に東京都三鷹市にて絵本を中心とした小さなセレクト書店をオープンしました。オンラインストアと山梨県のギャラリーカフェ・ナノリウムさんにも間借りして販売しています。
「絵本と本と人生の出逢いを」を主軸に、ただ消費されるだけではない、何度も読みかえす本、読むたびに思考に新しい示唆を与えてくれるような本をセレクトしております。
よもぎBOOKSではギャラリー展示やイベントも開催。絵本の買取・販売もしてます。
2018年8月号