公開日 2018/09/20
第3回「今とこれからのよもぎBOOKSのあり方」
こんにちは。
三鷹市下連雀4丁目にある小さな本屋「よもぎBOOKS」を運営している辰巳と申します。前回のコラムの末尾に書きましたとおり、最終回である今回は子育ての話を脇に置き、「今とこれからのよもぎBOOKSのあり方」について私なりに考えていることをお話していきます。
◎絵本専門店ではない店づくり
よもぎBOOKSは、「絵本と本と人生の出会いを」と標榜しているため絵本専門店と思われることが多いお店ですが、私は説明させていただける限り「絵本を中心にして、こどもの本もおとなの本もおいています」とお伝えしています。
その理由は、こども=絵本、大人=絵本を読まない、という認識の区切りをつくりたくなかったからです。絵本専門店の良さはやはり多彩な絵本のラインナップ、ポップでカラフルなお店の内装など親子連れに喜ばれる心地よさがありますが、大人の男性が一人ではなかなか入りづらいと思います。
絵本はだれにでも開かれ、だれもが手にとっていいと思います。大人に向けて作られた本も然りです。こどもが大人の本に触れて、道が開けることもあるかもしれない。男性でも女性でもそれぞれが誰もが自分が求めている本に出会えるような本屋さんであれたら、と願っているのです。
過去の私が本に救われたように、よもぎBOOKSで買った本で誰かが救われたら私の使命は果たされるのだと思います。
◎種をまく
お店では不定期ですがイベントを開催しています。
本を売ることが最も大切な仕事なので、そのためにできる限りのことをします。
その本がどんな背景で、どんな理由で、どんな環境でつくられているのか。
どんな人が関わって、どんな想いがあって、なにを伝えたいのか。
それぞれの本にはそのすべてが詰まっているはずなので、お店では作り手の作家さんをお呼びして、製作途中の原画を展示したりワークショップなどを通じて作家さんの生の声を聞いてもらう場所づくりをしています。
ただの平面的な絵本も、作家さんと会って一緒に過ごす時間を通して大切な1冊に代わっていく。
その絵本を開くたびに、作家さんの顔が浮かび、その時の体験を思い出す。
それが私の”本を売る”仕事です。
その体験はやがて芽を出し、次の時代の作家を育てるかもしれません。
お店に来てくれた子供のうちひとりだけでもそんな風に本にかかわる仕事に就いてくれたら・・・。
老いた私は本屋を開いた甲斐があったと、生きててよかったと、心の底から嬉しく思うでしょう。
◎これからのこと
頭の中では寝ても覚めても夢の中でさえも本屋のことを考えています。
時には子供たちのことより考えている日もあります。
本を買って、嬉しくてスキップしちゃう人たちで街中溢れてたらいいのに、などの妄想すらします。
出版不況は業界以外の方々も周知されている通り、決して本屋を経営することは楽ではありません。
よもぎBOOKSのような駅から離れている小さなお店にはお客さまが全く来ない日だってあります。
みんなに必要とされてないんだな、お店やっている意味あるのかなと辛くなる日もあります。
でもたぶん、それでも本屋のことばかり考えて、本屋が好きだと思えているのは私が本当に「本屋が好きで好きで仕方がない」以外に理由はないのだと思います。
原動力はただ心の底から好きなのかどうか、だけ。
本屋はもしかしたら何十年後かにはなくなるかもしれません。
お店にくる子どもたちをみていても本屋さんに初めてきた、という子がたくさんいます。
レジに見本の絵本をもってきて「貸してください」と言われることもあります。
(その時は実に微妙な驚きと切ない気持ちになるのですよ)
正直なところ、本屋はなくてももう世の中はうまく回るのではないかとも思います。
電子書籍や、巨大な倉庫を備えた大型ネットストア、そして図書館があれば十分かもしれません。
では本屋さんはなんのためにあるのでしょう。
本屋さんはもう絶滅するのでしょうか。
今までの本屋さんの形態ではもうだめなのだとみんなわかっている。
誰しもそれはわかっている。
だけど正解の形がわからず、みんなもがいている。
しかしそれは苦行に似た状況であるとともに、一方でとても自由になったのだとも感じています。
「本屋はこうあらねばならぬ」の規範が薄れ、なにが正解かを模索する先に広がる草原のような自由。
本を売るための自由は限りなく無限に広がります。
こんな状況なのだからだめでもあまり叱られませんから、最大限アイデアをひねり挑戦することができるのです。
本屋さんっていいよね。あの本屋さんで本を買いたいな、と一人でも多くのお客さまに思ってもらえるまで。
希望を探す限り、希望はそこにある。
よもぎBOOKSです。2017年3月3日に東京都三鷹市にて絵本を中心とした小さなセレクト書店をオープンしました。オンラインストアと山梨県のギャラリーカフェ・ナノリウムさんにも間借りして販売しています。
「絵本と本と人生の出逢いを」を主軸に、ただ消費されるだけではない、何度も読みかえす本、読むたびに思考に新しい示唆を与えてくれるような本をセレクトしております。
よもぎBOOKSではギャラリー展示やイベントも開催。絵本の買取・販売もしてます。
2018年9月号