公開日 2019/03/04
第5回 心に残る温かいカ笑ルエピソード
「カ笑ル食堂」のオーナーシェフの高橋明美です。
オープンからの4年間で、ジェイコムの番組で「カ笑ル食堂」を立ち上げたプロセスを取り上げてもらったり、SNSなどでもお店をいっぱい紹介してもらえました。
また、心に残る温かいお客様とのエピソードもたくさんあります。
ここではその中から2つのエピソードを紹介させてもらいます。
エピソードその1
最高齢の常連さんだったMさんご夫婦
ご主人91歳、奥様84歳のMさんご夫婦は国立より吉祥寺に引っ越しされて、「カ笑ル食堂」にいらっしゃいました。
研究者か大学教授のご主人はいつもスーツを着てご来店、奥様は上品で穏やかな女性でした。
Mさんとは、戦争のこと、日本の相撲界のこと、動物園のことなどたくさんお話をしました。
政治の話になり、安倍政権についての話題では、「私もそう思います。」と自分の考えを伝えてしまいました。
Mさんは、長年の経験から私の事を心配して下さいました。
私が政治についての自分の考えや思想、価値観をこの場所で話す事で、私自身の身に降りかかる危険性について丁寧に教えていただいたのです。
また、毎回宿題が出ました。
オリンピックの種目には何があるか?動物が檻の中に入れられている動物園をどう思うか?外国人力士が多くなった日本の相撲界について等など。
簡単のようで結構考えさせられる難しい内容でしたが、毎回の宿題が何だか楽しくなっていきました。
パソコンで打ち出すより自筆で書いたものを提出した方がMさんが喜んで下さるだろうなと思い、夜中までかかって調べたものを自分の考えに繋げてまとめました。
時々、「今日行こうと思うのだけど宿題出来たかな?」と電話がありました。
忙しくて、まだ出来ていないことを伝えるとMさんは寂しそうでした。
それほど私の宿題の提出を楽しみにしていたMさんでした。
その横で、奥様は私に、「ね!たいへんでしょ!かわいそうに!」と、アイコンタクトをするのでした。
なんだかそんなお二人の温かい空気を感じる時間が私自身も好きでした。
9月のある日の朝、ご主人から突然の電話。
「実は、私が夏から体調を崩し、入院していてそちらに行かれませんでした。
9月末まで入院しますが、退院したら、夫婦2人で田無の老人ホームに入ることになりました。
大変お世話になりました。もうお会い出来ませんが、最後に是非、直接御礼を言いたかったのです。」
との事でした。
電話を切った後、涙が止まりませんでした。
突然の事で、どこの病院か聞くことも出来ませんでした。
「カ笑ル食堂」のスタッフの機転で、近所のN病院へ一緒に行ってみようという事になり、最後にMさんにお会いする事ができました。
Mさんは会った瞬間とっても喜んで下さいました。
医院長先生にも
「短い間だったけどこんなにしてもらって幸せです。素敵な人に出会えてこんなに嬉しい時間を作ってもらえた。出会いは内容の濃さであって、回数や年月ではないのですね。とってもとっても幸せだった。」話してくださいました。
そしてみせてくださったお守り。
お財布の中から取り出したMさんのお守りは私の書いた宿題の数々でした。。。
今でもお二人が満面の笑顔で帰って行く姿が忘れられません。
また、お会いしたいなぁ。お元気で!
エピソードその2
フランスから来たベンジャミン登場。
ベンジャミンはフランスの大学院で博士号を取得後、JAXAの研究生として日本へ来ました。
そんな時に「カ笑ル食堂」を見つけて来てくれたのです。
ベンジャミンは5ヶ国語を話せますが、日本語は全く出来ないためコミュニケーションは英語のみ。
和食の好きな、元気で明るい好奇心旺盛なベンジャミン、飛行機の研究がお休みの土曜日は、毎週「カ笑ル食堂」に来てくれました。
その1ヶ月後から、JAXAで一緒に研究しているフランス人のアントワンと一緒の来店が始まりました。
郷に入れば郷に従え!
2人は「カ笑ル食堂」で沢山の挑戦をしました。
納豆トライ!梅干トライ!等など。
笑顔の二人はどんどん日本人化していきました。
7月にはベンジャミンのお姉さんが観光で来て、来店してくれました。
とっても元気で愛らしいマリエットと意気投合。
旅行最終日に「カ笑ル食堂」を訪れ、自分で描いた可愛いフランスのカエルの絵をプレゼントしてくれました。
この絵はカ笑ル食堂の家宝になり、今も額にいれてお店に飾っています。
10月には、アントワンの彼女が、11月にはベンジャミンのご両親が来店し、皆さんとても喜んでくれました。
11月の2日間、鈴鹿のレースイベント参加のため「カ笑ル食堂」は、連休です。
そのことを伝えるとベンジャミンとアントワンは携帯で鈴鹿のカーレースを調べ始め、二人でフランス語で何やら話しはじめました。
そして、「レース観戦チケットが取れたら、明日の新幹線の始発で鈴鹿サーキットへ行くよ」と言って、ニコニコしながら帰っていきました。
翌日現地で合流し、鈴鹿サーキットでそれはそれは皆で盛り上がりました。
2人には日本のクリスマスやお正月の文化も味わってもらえました。
ベンジャミンがフランスに帰る最後の日、今まで見たこともないくらいの暗い顔で、お食事を出してもしばらく手をつけず、涙を浮かべていました。
そして1時間もかけてかみ締めるように食べていました。
ベンジャミンがカウンター越しに今までの事を思い出しているみたいに、私をずーと見つめているのです。目が合うと涙が出てしまいそうでした。
お会計にベンジャミンが立ち上がり、厨房に入ってきてハグしておでこにキスするのですが、なかなか離れません。
何回も振り返りながらドアをあけてやっとの思いで出て行きました。
外の3つある窓に顔をつけてこちらをみては、なかなか帰れない様子で、3つ目の窓から涙でグチョグチョの顔がみえました。
「カ笑ル食堂」で、たくさんの日本の思い出を作ったのでしょう。
今でも日本とフランスで、彼らとの交流が続いています。
ここで紹介させて頂いたエピソードはほんの一部で、まだまだ沢山あるカ笑ルエピソードをお伝え出来ないのが残念です。
次回は。「カ笑ル食堂」の仲間達から”「カ笑ル食堂」に関わって!”のお話を載せさせて頂きます。
皆の想いが伝わる最終章になりそうです。
HP
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2019年3月号