公開日 2019/07/10
一般社団法人みたかSCサポートネット代表理事の四柳千夏子です。防災教育や補習学習などで、学校教育とコラボしながら子どもたちの支援活動をしています。また、文部科学省総合教育政策局コミュニティ・スクール推進員(CSマイスター)としても、全国区で活動しています。三鷹の教育にどっぷりとはまっているこの20年間を8回にわたりおはなしさせていただきます。
<第3回> 地域子どもクラブとの出会い
~がむしゃらだった立ち上げ期~
平成16年4月、文部科学省に「子どもの居場所づくり推進室」が設置された、という小さな新聞記事を見つけた。何気なく切り取って保管したが、まさかこのあと、これがPTA会長2年目の我が身に降りかかることになろうとは、このときは思ってもみなかった。
それは、夏休み中のP連(三鷹市公立学校PTA連合会)の研修会移動時のバス車中でのことだった。市の教育委員会の方より、東京都から予算がおりたので、三鷹市内の全小学校で「地域子ども教室」(当時は「教室」だった)を実施してほしい、ついては実施委員会を各小学校で立ち上げて欲しい、という話があり、バスの中でその資料が配られた。
夏休みが終わり、2学期の始業式の日にクラス委員の人たちに事情を説明し、各クラスから1名、スタッフが集まった。わかっていることは、予算がおりているということと、学校施設を使って子どもたちの安全で安心な放課後の居場所を作るということだった。
当時、国内では、小学生の下校途中を狙った痛ましい事件が各地で起きていて社会問題になっていた。また、働くお母さんが増え、学童保育所に入りたくても定員オーバーで入れない、いわゆる待機児童問題が世の中の問題になりつつあった。安全で安心して誰もが遊べるのは学校。だから学校施設を利用して、子どもたちの放課後の居場所を作ろうというのがこの事業の趣旨だ。
「予算を使って何をするか」から話し合いはスタートした。しかし、私たちの話は、だんだん自分たちがやらなければいけないことの本質に迫るような内容になっていった。
「居場所、居場所って言うけど、子どもたちにとって、本当の居場所って一体どういうところ?」
近くに公園もあれば、学童保育所だってある。児童館もあるし、第一、小学生にとっては、家庭が本来の居場所のはず。じゃあ私たちに求められている役割は一体何?私たちが作らなければいけない居場所ってどんなもの?ということをとことん話し合った。
あとで知ったことだが、他の多くの学校は「予算を使って何かをするイベント」の内容が、話し合いの中心だったそうだ。そして、先を急ぐ余り、そこで議論を終わらせて実施に踏み切った学校がほとんどだった。
他の学校とは違う進み方をした私たちだったが、このときの話し合いが、今でもうちの学校の地域子どもクラブの根幹を支えている。この話し合いがいかに大切なことだったかは、活動が大きくなり、たくさんの人が集うようになって痛感するようになった。一つの事業を複数の人が集まって取り組む場合、活動の理念や趣旨をみんなで確認することは、活動をぶれさせないためにとても必要なことだったんだなぁと振り返ってみて思う。
そしてうちの学校の地域子どもクラブは、今でも子どもたちに安心して「いていい場所」を提供し続けている。もちろん、スタッフであの頃から残っている人はほんの数人。メインスタッフは現役の小学生お母さんたちだ。代が替わっても、理念は変わらず引き継いでくれていることが何よりうれしい。
実は私には長年の密かな目標がある。この居場所を毎日開催することだ。いつでも行ける、誰でも行ける、安心していられる居場所を作りたい。でも、運営は現役小学生のお母さんたち。自分の子どもがいながら毎日開催するのは、負担が大きい。学校施設を使っていることもあり、実現するにはいろんな障壁を乗り越えなくてならない。自分自身も今は毎日関われないし。これはライフワークとしてとっておくことにしよう。
~あらたな自分の発見~
PTA会長として地域と学校とのつなぎ役になったり、地域子どもクラブの運営でたくさんの方とコンタクトをとったりしているうちに、役職ではなく、「四柳千夏子」として人脈が広がりだしていた。役職を超えたところで人と人をつないだり、相談事を持ちかけられたり、「よくわからないけど私がやったほうがいい(だろう)コト」がなぜか増えていった。同時に、「なんで私がやらなきゃいけないんだろう?」というちょっとしたモヤモヤも抱えていた。
そんな私のモヤモヤした気持ちをかき消すことになる講演を聞いたのはこの頃だった。それは、地域社会について研究されている大学の先生の講演で、地域活動やボランティア活動を推進していくためには…というテーマだったように思う。町会や自治会活動を例に出して「近頃、自治会長さんなんかを輪番制にしちゃってるでしょう。あれは活動を形骸化させる大きな要因なんです。周りを見渡してみると、長となるべき人がいる。それがもしかしたら自分かなぁ…と思ったらもう腹をくくってやるべきなんです」、「地域活動を活性化させるにはヒトの力が大切。推進の牽引役が必要です。要は、誰かが腹をくくればいいんです。」という講師の先生の話に、私はハッと目が覚めた思いがした。
「子ども」という地域の宝を大切にしようという思いは、多くの人たちが抱いてくれている。様々な人が様々に抱いている子どもに対する思いや持っている力。足りなかったのはそれを「つなげる」力。「コーディネート」する人。
できるかどうかは別として、もしかしてそれは私?私は講演を聞いて不覚にもそう思ってしまったのだった。でも、そう腹をくくったら心のモヤモヤは少しずつ晴れていった。
平成19年度からは地域コーディネーターとして、七小の子どもたちの放課後事業を推進し続けた。
一般社団法人みたかSCサポートネット http://mitakano.grupo.jp/
2019年7月号