公開日 2019/08/01
ママとパパのリレーエッセイ 第198回 -古本カフェ・フォスフォレッセンス 店主 駄場みゆきさん
「お母さん、ウーフの本があったよ」
「あ、大好きな本があったよ」と窓辺の本を指さし声をあげ駆けて行く親子。
三鷹図書館(本館)近くのロマネスクビル1階で古本カフェを経営している駄場と申します。
冒頭に書いたのは、この度自費出版したエッセイ集『太宰婚~古本カフェ・フォスフォレッセンスの開業物語~』「クリスマスの窓辺から」章の1シーンです。
三鷹通りの街角に店を構えて17年。5.5坪のちいさな店なのに窓ガラスは特大なのがこの店の特徴です。
窓辺に本を並べると、ちょうど子どもたちの目線に表紙が目に入ります。
通り過ぎる時に指をさしたり、お連れのご家族に「見て見て!」と声を上げて反応してくれる子どもたちが多いのです。
ガラスを隔てた店内にいる私だけでなく、そんな場面に偶然立ち会った人たちも思わず目を細めます。
この街角は、子どもたちからたくさんの力をもらっているのです。
平成14年のオープンの時は窓辺の背丈だった子たちも、今はグンと背が伸びてあと数年もすれば社会へと旅立っていくのでしょう。
そう思うと感慨深いです。
17年を経て本を巡る事情は様変わりしました。
本屋が一軒もない街も増えてきています。子どもたちの遊びの選択肢も増え、紙の本をめくるよりもスクロールで指を動かすことの方が多いのかもしれない。
そんな時代だからこそ、街角に本のある風景を守っていきたい。
ここを通り過ぎる子どもたちや人々の記憶に、窓の中に本がある光景を残したい。
本の言葉、絵から発するシグナルをキャッチし、何かを感じとってもらえたら。
些細な気付きでもそこから発芽し、ひらめきが育つきっかけになればいい。
そう願います。
自著にも書いたのですが、当店はピーポくんが目印の黄色いプレートを掲げ、子ども避難所に登録しています。
街の子どもたちを守っていかなくては。そこは街角にあるお店として、役割を果たしていきたい。
そういう意味でも、2階にNPO法人子育てコンビニさんが入居下さってとても嬉しかったし、たくさんのお客様から「良いところが入ってくれましたね」と声をかけられました。
同じビルで子育て支援活動されているスタッフさんが立ち働いてる、人の声、息遣いが感じられるというのはいいものですし、時に背筋がスッと伸びます。
そんなすべての過ぎていく風景を店の前に佇む桜の樹は見つめ、自らも成長し続けました。
オープンの頃は私の背丈(153cm)くらいだったのに今では三鷹通りの向かい側に届かんとばかりに枝を伸ばし、満開のときは桜のトンネルになります。
桜の時期、当店ではお茶を飲みながらお花見も出来ます。
心よりご来店をお待ちしております。
今後も末永く「フォスフォレッセンス」「ロマネスクビル」共々どうぞよろしくお願いします。
古本カフェ・フォスフォレッセンス 店主 駄場みゆき
2019年8月号