ママとパパのリレーエッセイ第215回- 今井智子さん

公開日 2021/01/01

コラムママとパパのリレーエッセイ 第215回-今井智子さん

今アメリカは大統領選で大きく揺れていますが、私が5歳になったばかりの娘と2歳の息子を連れて渡米した時は、現職の父ブッシュ氏とクリントン氏の大統領選で沸いていました。赴任先は「風と共に去りぬ」の小説や映画の舞台で、オリンピックが開催されたジョージア州アトランタ。もう 30 年くらい前のことです。

当時アトランタへの直行便がなく、途中シアトルで給油のため一旦降りて、1 時間後くらいに再搭乗。海外は初めての私にとって、不安と緊張感でいっぱいの 14 時間のフライトでした。現地では、夫が家を借り、車を 2 台購入して私たち親子の到着を待っていました。それから一緒に家具など生活用品の買い物、学校で娘の入学手続き、アメリカでの車免許の取得を 2 週間で済ませ、夫は長期出張に行ってしまいました。

怒涛のアメリカ生活の始まりです。

最初の 1 年間、特に学校関係はわからないことだらけでした。

娘の登校初日、「トイレ」「お腹が痛い」「頭が痛い」などの言葉を英語のカードにして持たせたのを覚えています。毎日学校からもらってくる書類を読むのが大変で、どんな行事があって何を用意すればいいのか戸惑うことばかりでした。左右違う靴下をはく日、T シャツを裏返して着る日、パジャマを着て寝袋を持ってくる日など、日本では考えられないようなことも子ども達は楽しんでいました。クラスはアポなしでいつでも見学できます。私は週 1 回、お手伝いに行って子ども達の様子を見ることができました。

アメリカ南部の人は一般的に客人を温かく受け入れ、もてなす心「サザンホスピタリティ」があると言われています。道行く人は誰もが笑顔で挨拶、男性(少年も)はドア開けて女性を先に通し、荷物を抱えていると駐車場まで運んでくれます。また、子どもを連れてスーパーで買い物していると、老夫婦が写真を見せながら「うちにもこの子くらいの孫がいるよ。」と声をかけたり、心が和む機会が数多くありました。隣人たちは自分で栽培した野菜を持ってくる、アトランタブレーブスの野球帽を子ども達にプレゼントするなど、いつも気さくに接してくれました。日本人社会も、新しく来た家族のお世話をしたり助け合うのは自然でした。そして友人達とバーベキュー、子ども達は寝袋を持ってお互いの家に泊まる、週末の恒例行事。振り返ってみると、毎日忙しかったのに心豊かな空気が満ちて、家族や隣人たちと過ごす時間を十分に持てたこと、それが子育てにもよい環境だったのではないかとしみじみ思うのです。

約4年間のアメリカ生活で見えたものは、「相手の考えを尊重する」「程よい距離の心遣い」「相手のために自分の時間を使うことは、お金や品物を贈るよりも尊い」ということです。コロナ禍にある今、人との関わり方が大きく変わってしまい、子育てはかつてない大変さだと思います。ささやかな恩送りの気持ちで親御さんに寄り添えたらと思っています。

今井智子

 

2021年1月号