エッセイ
無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 58
2024年9月12日
無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 58
―大五郎、ロック小僧化の日々―
水無田気流
わが一子大五郎(仮名)、現在16歳9か月。10代半ばで急にロック小僧になった。もともと夫が若い頃バンドをやっていたのもあり我が家にはロックのCDが大量にあったので、幼稚園児の頃からスミスやオアシスなどブリティッシュロックを聴いて育ってはいたのだ。それが急に自分でもギターを弾きたいと言い出し、15歳の大晦日に池袋のクロサワ楽器で少し早い新春大売り出しになっていたレスポールを買ってあげた、のが良かったのか悪かったのか。
初めヤツの弾くギターは、ギターの音というよりは限りなく「琵琶法師」のようだった。べんべんと恨みがましく響く音に悩まされ続けて約2週間後、ふと聞くとヤツの弾くギターはギターの音というよりは限りなく「ウクレレ漫談」のようになっていた。一生懸命オアシスの「ワンダーウォール」を弾いているようなのだが、目に浮かぶ光景はマンチェスターよりも常磐ハワイアンセンターである。それからさらに2週間後、ようやくヤツのギターの音はギターの音に聴こえるようになっていた。助かった。
だが、ヤツの好きな音楽は主として80年代〜00年代のロックのため、周囲の友達と話が合わないらしい。趣味友達の欲しい大五郎は毎日のようにクラッシュやニルヴァーナなどのTシャツを着て学校に行っているが、唯一反応があったのは「イギリス人の英語の先生だけだった……」。そうか。「その先生、スミスの3枚目のアルバムが出たころに、スミスのライブでモリッシーが花束をぶん回して歌ってるのを聴いたらしいんだよ!」……そ、それはとても羨ましい。というか、その先生は何歳だよ。先日はレディオヘッドのTシャツを着て歩いていたら、街中でライブハウスの店員さんに「レディオヘッドの日があるよ!」と声をかけられたそうである。「お母さんくらいの年の人だったよ」……うん。いいんだけど、同年代の趣味友達ができる日はくるのかなあ……。
<続く>
コンビニ通信vol.70(2024年7月発行)掲載
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