エッセイ

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 37

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 37のイメージ

2022年5月27日

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 37
―大五郎、夏の思い出―

水無田気流

 

わが一子大五郎(仮名)、現在10歳11か月。
小学生男児にありがちだが、カブトムシやクワガタムシが大好きである。小学校3年生のときには、多摩六都科学館で夏休みに設置されていたカブトムシ販売所で、目力全開でおねだり攻勢に出た。
ヤツのしぶとい目力に根負けし、夫と私はカブトムシを1匹お買い上げ……。
大五郎は、それはそれは大喜びでカブトムシに「カブ一郎」と名づけ、せっせと世話をした。
だが、夏が過ぎ風あざみ……ではないが、カブ一郎は9月のある朝、動かなくなった。大五郎は大泣きしながら、カブ一郎を葬って手を合わせていた。

翌年、今度は夫が学生と参加した夏祭りで、何と「クワガタくじ」を出店する店が出ていた。周辺をうろうろしながら、またもや目力強く訴える大五郎。……私たちは根負けした。
大五郎はミヤマクワガタとノコギリクワガタを引き当て、大喜び。「ミヤ一郎」「ノコ一郎」と名付け、世話をしていた。
だが、夏まつり宵かがり……のごとく、秋が来て2匹は次々逝去。再び大泣きしながら、大五郎は以下同文。

もう、カブトムシもクワガタも、いいんじゃないかな。そんな風に言っていた夫と私だったが、今年の夏、驚くべきことに仕事帰りの夫の足元に偶然、ぐったりしているノコギリクワガタが現れた。夫は悩んだが、大五郎が喜ぶ例の顔が思い浮かび、保護して帰宅。
もちろん、大五郎は「うっきゃー!」と大喜び。今度は「ノコ次郎」と名付け、大切に飼った。その甲斐あってノコ次郎は、餌をもりもり食べ、とても元気になった。

だが夏休み中盤、夫は大五郎にある提案をした。
「ノコ次郎を今まで見たいにうちで死なせるよりも、夏のうちに人間に捕まらなそうな場所に放せば、繁殖できるかもしれないよ」と。

かくして、2人は森の奥にノコ次郎を放しに行った。今でも、放されて木の幹にしがみつくノコ次郎の写真は、大五郎の宝物である。うっとり眺めては、あの森にノコ次郎の子どもが育っていると、力説している。

<続く>

コンビニ通信vol.47(2018年10月発行)掲載

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