エッセイ
無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 35
2022年5月27日
無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 35
―大五郎、母が倒れた木枯らしの日に―
水無田気流
わが一子大五郎(仮名)、現在10歳4か月。
去る1月、母は不覚にもインフルエンザにかかってしまった。大流行のビッグウェーブに乗りたいとは1ミリも思わなかったのだが、猛威は残酷である。大学は期末試験と成績評価業務を控え、その後は入試業務が待っている。年明けの原稿督促ラッシュも依然続く……と言う状況で、倒れてしまったのだ。もう、生活崩壊である。何しろ、朝起きたら、声が出ない。全力で声を出しているつもりでも、名作時代劇「木枯らし紋次郎」で、中村敦夫演じる紋次郎がひゅうっと長爪楊枝を飛ばす音のうち、こすれる「ひ」だけが長々と出るような、そんな感じである。
1週間は出勤しないよう医者から言われたが、問題は家族だ。夫は仕事でしばらく不在だったので、幸か不幸かうつす心配はなかったが、大五郎にうつすわけには行かない。家の中でもずっとマスクをしていた。
一方、大五郎は私が仕事を休んで家にいるので、おおはしゃぎであった。しょっちゅう寝込んでいる私の腹の上で飛び跳ねてご機嫌。ただそれでも、電子レンジ式の湯たんぽを温めて来てくれたり、冷えピタを替えてくれたりと看病してくれたのは、ありがたかった。「ママ、僕、お使いに行くよ!」と言うので、経口補水液の買い足しを頼み、ついでにお駄賃として好きなお菓子も買っていいよとお金を渡すと、意気揚々と出て行き、お使いの品の他、バナナとうどんも買って来た。「僕が前に風邪を引いたとき、喉が痛くて、バナナと伊勢うどんしか食べられなかったら、これがいいかと思って!」だ、そう。ああ、子どもに助けてもらえる日が来るなんて……と若干親馬鹿気味にしみじみ思った。
その後も抗インフルエンザ薬が身体に合わずヘロヘロになったりもしたが、唯一良かった点は、大五郎のお手伝い癖がついたことである。そう。たまに倒れてみる(振りをする)のも……、子どもの自立のためには、お薦めかもしれない(?)。
<続く>
コンビニ通信vol.45(2018年4月発行)掲載
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