エッセイ

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 59

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編  59のイメージ

2024年11月20日

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 59

―大五郎、ボカロ三昧の夏―

水無田気流

 

わが一子大五郎(仮名)、現在16歳11か月。夏休み中、作曲に勤しんでいた。以前、こどもの日のお祝いにねだられ「初音ミク」を買ってあげてしまったのが運の尽きであった。それ以来、ミクをプログラミングして自作の曲を歌わせるのに夢中である。今年の夏は、そんな訳で音源を増やし、ギターで演奏した音を重ねてボカロ曲作りに邁進していた。毎日毎日パソコンに向かい音源をひねっているのだが、どうにもヤツが歌わせている初音ミクには独特のクセがある。大五郎によると、「ASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチ(ボーカルの後藤正文)の歌い方を再現して歌わせようとしている」のだそうである。

たしかにヤツのプログラミングした初音ミクは、元がかわいらしいボカロ声だと言うのに、妙にクセが強い。「らりるれろ」が「うぁうぃうぅうぇうぉ」に近く、たとえば「夜」は「ヨウ」になる。いろんな単語の中に「ン」の鼻音が独特なタイミングで入ってくるし、ときどき独特に母音を引き伸ばして歌っている。そうか、たしかにアジカンのゴッチが原型だ……。

よく特徴を取り入れているね、と言ってあげたが、ヤツは「いや、まだまだ!これじゃあ2020年代のゴッチだ。俺は2006年のころのゴッチの歌い方を初音ミクで再現したいんだ!」と言うが……正直、違いがよく分からない。まあ、今はまだこの程度だけれども、そのうちテクノロジーがもっと進化したら、往年の名歌手の歌なんかも再現できるようになるのだろうか。もっとも、初音ミクのプログラミングはまだまだ大変であるらしく、しかもヤツのパソコンは容量が乏しい。ときどき著しく遅いテンポで後藤正文風ミクの声が響いていた。一夏中クセの強い初音ミクの曲が家中に響き、ようやく「精一杯理想に近い歌い方が完成した」とドヤ顔で子供部屋から出てきたときには、もう8月末になっていた。……夏休みの宿題は終わっていたものと、信じたい(汗)。

<続く>

コンビニ通信vol.71(2024年10月発行)掲載

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