エッセイ

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 1

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 1のイメージ

2022年2月22日

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 1
―のびのびひろばに大五郎の咆哮はとどろく―

水無田気流

でたらめな時間に働く母の一人として、私はマイ・スイート・タウン三鷹の子ども家庭支援センター(のびのびひろば)の一時保育を利用している。非常勤で大学や専門学校の講座を掛け持ちし、家ではつねに何かしら書き物をし、万年よろず書き物仕事随時受付中という、明日の自分が見えない日々のため、いたしかたない。

なにせ、仕事の時間帯も日によってばらばら、夜の講義も多く、しかも学会報告やイベント出演は土日が多い。カタギさんと同様の時間帯に仕事をしていることのほうが、むしろ少ない有様である。保育所に預かってもらったところで、どのみち延長保育は必至……。ということで、結局夫(大学講師)と仕事がバッティングする場合、のびのびひろばに息子を預かっていただき、仕事をこなしている。
ありがとう、マイ・スイート・タウン三鷹……。

わが一子大五郎(仮名)は、現在1歳5か月。堂々たる幼児になった。
最初、のびのびひろばに預けたときは、生後4か月。ろくにハイハイもできない乳児であった。そのため、のびのびひろばに預けても、慣れない環境に多少ぐずるくらい。かわいいものであった。

豹変したのは、10か月のころ。後追い真っ盛り期である。少々一時保育のブランクがあったせいもあるが、のびのびひろばの入り口で預けて去ろうとしたところ、
「うわあああああん!んぎゃああああああん!」
という、泣き声というよりは、むしろ「ジュラシックパーク」に出てくるティラノサウルス・レックスがスピノサウルスと戦うときの雄叫びに近い音を発したのである。
その後も大五郎の恐竜化は続いた。預けるたびに、吠えることアロサウルスのごとし、母を追って走ることオスニエリアのごとし、泣き叫んでじたばたすること肉食獣を撃退するアンキロサウルスのごとし…。

毎度毎度、仕事前だというのに、気分はジュラシックパーク管理センター職員である。保育士さんたちによれば、大五郎は母が去った後はけろっとして遊んでいるというのだが、私がその姿を見ることはない。なにせ、別れるときは咆哮・アンド・涙、迎えに行っても喜びの雄叫び・アンド・涙。
この時期、大五郎の泣き顔を思い浮かべながらの仕事は、結構つらいものがあった。

だが、子育てのいいところと言うのは、つねに子どもが変化しつづけるところにあった。1歳2か月になったある日、預けた大五郎が気になり、イベント出演後打ち上げも出ず、のびのびひろばに駆けつけたところ、「うきゃー!」という嬌声。
……誰だ、って、うちか!?

見ると、おもちゃで遊んですっかりご機嫌の大五郎。ああ、すっかり保育所に慣れたようである。
思えば、最初は不安そうにのびのびひろばの片隅にたたずみ、離乳食も喉を通らなかったと聞く。それが慣れるにつれてがつがつ食べるようになり、次第におかわりを要求するようになり、ついにはまだ食べ終わっていない子どもの分食事やおやつを、目をらんらんとさせて狙うようになったそうである。
それはちょっと(いやかなり)恥ずかしいが、成長して良かった。母にも気づかずに、遊びに夢中なんて……。

しかし、母が我が子の成長に目をうるませて抱き上げようとすると、大五郎はおもちゃから離れるのを嫌がり、「うわあああああん!んぎゃああああああん!」のティラノサウルス発動。
大五郎、おまえというやつは……。

<続く>

 

コンビニ通信vol.11(2009年10月発行)掲載

 

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