エッセイ

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 23

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編  23のイメージ

2022年5月27日

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 23
―大五郎、初めての小学校運動会―

水無田気流

わが一子大五郎(仮名)、現在7歳2か月。
秋には、初めての小学校での運動会を迎えた。1年生は、「妖怪ウォッチ体操」や、お遊戯を見せたりと可愛らしい。だが、それらの演目の間、大五郎はずっと「無常の目」をしている。「おなかでも痛いの?」と聞いても、無言。その眼は……本『子連れ狼』の拝大五郎のような死生眼である。
ようやく口を開いたと思ったら、「50メートル走で、1位になりたいんだよ……」と言う。
ううむ、困った。

大五郎には、致命的な欠陥がある。それは、「勝気だがどんくさい」というものである。
幼児園時代も、徒競走で2位に終わった時は号泣し続けて大変であった。また、あの号泣を見るのか……。
ヤツに比べると、私の小学生時代は「どんくさい上、勝負事はどうでもいい」というやる気も根性もないが、見方によってはピースフルなものであった。
この母にして、なぜこの勝気な子なのだろう。人間、能力の伴わない分野に望みを抱いても、つらいばかりだというのに……。母の心配をよそに、運命の50メートル走の砲撃はなった。
大五郎、スタートダッシュで遅れ、しかも大きく横に曲がって走行。
うん。勝てないね……あれ、でも、コースは曲がりながらも根性で前傾姿勢をとり、前の子どもたちを追い上げ、追いつき……えっ! 追い抜いた?
周囲の子どもたちが失速した中盤以降、むしろ大五郎は一気に加速。差がぐんぐん開く……転ぶな、転ぶなよ……ええ~! 1位で、ゴール、したのか!?

ゴールテープを押し切って、大五郎は飛び跳ねながら1位の旗の列に並んだ。頬っぺたが真っ赤である。よくやった、我が子よ。フォームはめちゃくちゃだし、コースははみ出す直前までまがっていたのに、おまえは母と違って、勝ちたい気持ちだけは持って生まれてきたんだね。
このときばかりは、我とわが身のやる気のなさを反省した。

その日は夜中まで自慢し続け、寝た後も寝言で笑い続けた大五郎であった……。

<続く>

 

コンビニ通信vol.33(2015年4月発行)掲載

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