エッセイ
無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 31
2022年5月27日
無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 31
―大五郎、人間の成長とは……?―
水無田気流
わが一子大五郎(仮名)、現在9歳6か月。
3月。私にとっては、恐怖の年度末保護者会がやって来た。「この1年のわが子の成長した点」について述べなければならないのだが……、適当なトピックが思いつかない。
あえて言えば、ときどきヤツが思いついては書いている文章が、大分上手くなったとは思う。両親の真似だろうか。「僕もろんぶんを書く!」と言って、よく私の書斎のプリンタ用紙を持ち出しては、ごそごそ書いている。
急に文章の「かたち」ができてきたかな、と思ったのは小学校2年生のとき。
ラグビーの試合を見ていて、解説者が陣形が崩れた展開を、「これはアンコンストラクチャー」と言っているのを聞き、思いついたと言って、「こうぞうとひこうぞう」という文章を書いた。
内容を要約すると「ラグビーの試合が、アンコンストラクチャーになったところからこそ点数が入るように、社会の中の構造的な部分よりむしろ非構造的な部分こそが、大きな進化をもたらす。
たとえば経済では、震災からの復興などが、普通の状態以上に経済成長をもたらすのが、それに当たる」などという。
最終的には、「こうして考えると、僕には普通とは何かが分からなくなる」と結論されていた。誤字だらけの汚い字で、句読点のつけ方もめちゃくちゃだが、1つだけ驚いたのは、「前提」で問題提起をし、「本論」で内容を展開し、「結論」でまとめあげるという、論文の「型」だけはできていた点である。
長年大学で教えているが、これを学生に体得させるのは本当に難しい。なぜ教えてもいないのに、これが出来る、大五郎!?
最近、大五郎は「論文」に使う単語が飛躍的に増え、接続詞の使い方も上手くなった。でも、これを保護者会で言っても……、たぶんどん引きされるだけだろうなあ……と思い、「すいません、とくに成長したところは、思いつかないですねえ。」と情けなく言って、帰って来てしまった。すまぬ、大五郎……。
<続く>
コンビニ通信vol.41(2017年4月発行)掲載
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