エッセイ

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 5

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 5のイメージ

2022年3月4日

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 5
―大五郎、おいた大将軍―

水無田気流

 

先月、ベランダに出ていたときのこと。窓を開けて中に戻ろうとしたが、開かない。
鍵がかけられている。なぜ!?とパニックに陥ったが、ふと見ると、ガラス窓越しにわが一子大五郎(仮名、このとき2歳3か月)が、不思議そうに母を見上げていた。

「大五郎!おまえが鍵をかけたのかっ!ぎゃー!開けてっ!鍵を開けてよ大五郎!」
とさんざん言ったのだが、さすがはわが馬鹿息子。鍵はかけられても、開けることはできない。そそくさと部屋を出て行ってしまった。

さきほど夫は「会議があるから」と、出かけたばかり。私は焦った。脳内、大混乱である。
「どーしよどーしよどーしよいやどーにもならん、窓をはずすか、えいこりゃ、えいこりゃ、ダメだもちあがらん、っていうか大五郎がどっか行っちゃった!?やばい、夫の書斎をあらしているにちがいない、どーしよっていうか、あいつを野放しにしたら、あいつ自身が心配、っていうか今日の締切がー、仕事がー
「大五郎~!大五郎~!大五郎~!!!!!」と、窓をたたいていたところ、
「どうなさったんですか?」との声。下の階の奥さんが、心配そうに見上げている。
「えっと~実は~かくかくしかじか~(涙目)」と説明したところ、
「じゃあ管理会社さんに電話をしますね!」とのこと。

そこに、ドアを開けて夫が登場した。
「おまえ、何してるんだ?」
「大五郎に、鍵閉められたっ!あんたこそ会議じゃなかったのっ!?」
聞けば、夫は出ようとしたが、腹痛に襲われ、ずっとトイレにいたそうである。
あぁそれはともかく、夫のユルい腸が、こんなにも頼もしく思えたのは、初めてである……。
人間、どんな欠点にも、見るべきところはあるらしい。

というような次第で、無事に部屋に入ると、階下に直行して、下の奥さんに謝った。

ちなみに、夫は、大五郎がトイレのドアをどんどんがんがんたたくので、何事かと思って、こっちに来たらしい、しかし、問題の根源は、おまえだ、大五郎……。

<続く>

コンビニ通信vol.15(2010年10月発行)掲載

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