エッセイ

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 6

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 6のイメージ

2022年5月27日

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 6
―大五郎、妖怪ちょうだい小僧―

水無田気流

 

わが一子大五郎(仮名)、現在2歳8か月。
ずいぶんとしゃべるようになった。ただ、少々ヘンテコな日本語である。
最近では、よく「~ね」「~だ」を語尾につけるようになった。「ママ、トーマス見たいね!」「パン、たべたいだ!」といった具合。

とくにしつこいのは、大好きな「りんごジュース」をねだるときである。
「りんごジュース、飲みたいね!」
「……ママは飲みたくないよ」
「飲みたいね!飲みたいね!」
「ほしいなら、ちょうだいでしょ?」
「りんごジュース、ちょうだい!」
「はい」
と、最初は与えるのだが、大五郎、困ったことに際限なくほしがる。歩くたびにおなかがちゃぷんちゃぷんいっていても、「りんごジュースちょうだい!」である。

「もうないよ」と言うとすかさず冷蔵庫の扉を開け、ジュースの紙パックを指差し、憤怒の表情で
「りんごジュース、ある!ちょうだい!ちょうだいぃ!ぢょうだぁいだああぁ!」
と泣きながら訴えてくる。
「いい加減にしなさい、ちょうだいちょうだいって、おまえは何だ!」
と怒ると、大五郎は胸を張って言うのである。「ちょうだいだっ!」と……。
彼は、妖怪ちょうだい小僧だろうか。

おかしいといえば、「ごめんなさい」の使い方もおかしい。
おいたをして叱られた際、「ごめんなさい」を言うと「よく言えたね~!」と頭なでなでしてもらえるのに味をしめたせいか。なでてもらいたいときには、私の手をとり、自分の頭の上に乗せ、満面の笑顔で「ごめんなしゃい、ママ、ごめんなしゃい!」と言う。少々哀れなのは気のせいか。

ほかにもなでてもらいたいときには、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」「よく、がんばったんね」などと言いながら、やはり私の手をとり、自分の頭にもってくる。

たしかに、転んでごっつんしたときなどに、そう言いながらなでなでしてあげた記憶はあるのだが、自分から言うのはおかしいぞ、大五郎。

この微妙な違いが分かる男になってくれるのは、いつの日か……。

<続く>

コンビニ通信vol.16(2011年1月発行)掲載

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