エッセイ

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 60

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2025年2月9日

無宿渡世母がゆく 子育てコンビニ編 60

―大五郎、「普通」の日々―

水無田気流

 

わが一子大五郎(仮名)、現在17歳。高校生男子のいる保護者のみなさまにはあるあるではないかとも思うのだが、学校生活について聞いてもほぼ答えない。正確には、答えても毎度「普通」しか言わない。困った。なぜなら、このコラムに学校生活について書くことが乏しいからだ。秋の文化祭のときなども、クラスの出し物ではお化け屋敷をやっていたのだが、大五郎は「中世ヨーロッパのペスト医師のコスプレをして立っているだけの役」だった。ペスト医師とは、まだペストがどのようなメカニズムで感染を広げていくのか科学的に解明される前に登場した怪しいペストの専門医のことである。彼らは「瘴気」を吸わないようにと、カラスのクチバシのような部分に香料などを詰めた怪しい仮面をつけていた。そして、文化祭を見に行ったら大五郎はその格好でただうす暗い教室の隅にいるだけだった。帰宅後、文化祭は楽しかった?と聞いたところ、「しゃべっちゃいけなかったから最初はつまらなかったけど、お客さんの前でピースとか変なポーズとかとったら喜んでもらえたのは面白かったから、「普通」だと言う。おまえの「普通」は、守備範囲が広すぎないだろうか……。

一方、趣味のことならばべらべらしゃべる。よく作曲したボカロ曲を聴かせてくれたり、書いている小説も読ませてくれて事細かに説明してくれる。先日もなんだか悲哀を感じる独特の韻律の曲に初音ミクのかなり言葉数を詰め込んだリリックが乗った曲を聴かされ、ヤツは嬉々として説明してくれた。「これはフィンランド民謡の○○○のコード進行を元に、△△を意識して××と□□を重ねた曲で(以下略)……」。こんな風に毎回どういう意図でどういう楽器の音の組み合わせで等々細かく説明してくれるのだが、こっちの方はひたすら細かすぎて私が覚えられない……。どうしよう、「普通」のエッセイが書けない。ううむ。

<続く>

コンビニ通信vol.72(2025年1月発行)掲載

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